はじめに:「三びきのこぶた」を、今の子どもの成長教材に変える
『三びきのこぶた』は、多くの園や家庭で親しまれている昔話ですが、いざ取り組もうとすると「もう知ってる」「オオカミがこわい」と子どもから拒否されることがあります。
保育園で初めてこの演目を提案したとき、子どもたちにそう言われ、正直どう進めるべきか迷った経験があります。
かつては「原作どおりに、正しい三びきのこぶたを教えないと」と力んでいた時期もありました。
しかし、子どもの「こわい」「つまらない」という声を丁寧に聞いていくと、物語そのものを変えるのではなく、「どんなテーマで読み解くか」を変える必要があると感じるようになりました。
オオカミが家を吹き飛ばす場面は、子どもにとっては「怖いシーン」ですが、保育の視点で見ると「失敗を経験する場面」としてとらえ直すことができます。
わらや木の家が壊れるのは、「急いで作った」「調べないで決めた」という選択の結果であり、その後に「どうやってやり直すか」を一緒に考えることで、粘り強さや工夫する力を育てることができます。
このように考えると、『三びきのこぶた』は「家づくりの工夫の話」ではなく、「選択・失敗・再挑戦の物語」として再構成することができます。
そのとき、大人の役割は「オオカミを怖く演じること」ではなく、「失敗したこぶたにどんな言葉をかけるか」をデザインすることへと変わります。
この記事では、保育現場で実践してきた劇あそびの進め方と、子どもの心を支える声かけの工夫を、具体的な場面とともに紹介します。
「三びきのこぶた」を再構成するときの3つの視点
この章では、昔話『三びきのこぶた』を、子どもたちの“選択・失敗・再挑戦”に焦点を当てて再構成する方法をご紹介します。 即興劇あそびとして展開することで、子どもたちは物語を“自分のもの”として生き始めます。
「なぜ家を建てるのか」を子どもと一緒に決める
劇あそびの始まりは、こぶたたちが「これから家を建てよう」と決める場面からスタートします。
このとき、保育士が一方的に理由を説明するのではなく、 「どんな家に住みたい?」 「どうして家が必要だと思う?」 「家があったら、どんなことができるかな?」 と問いかけながら、子ども自身に動機を話してもらうようにしています。
三びきのこぶたは「材料は何で建てるか」を自分で選ぶ
次に、「家を何の材料で作るか」を、こぶた役の子どもたちに選んでもらいます。
原作どおり、わら・木・レンガにしてもよいのですが、あえて 「氷の家」「紙の家」「風船の家」「ブロックの家」 など、子どもの発想をそのまま取り入れると、選ぶ過程そのものが盛り上がります。
このとき、 「どうしてその材料にしたの?」 「その材料だと、どんな良いことがありそう?」 と質問しながら、「自分で選んだ」という感覚を大切にしています。
家を建てる理由を語る
素材を選んだら、なぜそれを選んだのかを語る場面を入れましょう。
こぶた一(わらの家)「ぼく、早く遊びたいから、わらでパパッと作っちゃお〜っと!」 「おなかすいたし、すぐできるのがいちばん!」
こぶた二(木の家)「わらよりは ちょっとがんばるけど、 木ならトントンってすぐできるし、軽くてらくちん〜♪」 「疲れたくないもん。簡単なのが いちばん!」
こぶた三(レンガの家)「ぼくは、丈夫なのがいいな。ちょっとたいへんでも、こわれないほうがいいもん」「あとで困るの、やだし…ちゃんと作る!」
オオカミが来る=試練
オオカミは、子どもにとって怖い存在になりやすいので、劇あそびでは「悪者」ではなく「試してくれる役」として位置づけます。
たとえば、 「この家、軽そうだけど大丈夫かな?」 「ちょっと風が吹いたらどうなるか、試してみてもいい?」 と問いかけてから「ふーっ」と息を吹きかけることで、「いじわる」ではなく「試練」として子どもに伝えることができます。
わらの家の前で(こぶた一への試練)
オオカミ「おや?こんなに軽そうな家で、ほんとうに大丈夫かい?」 「ちょっと風がふいたら……どうなるかな?」 「よし、試してみよう。ふぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
ねらい:こぶたの“選択”を試すような問いかけと、静かな緊張感
木の家の前で(こぶた二への試練)
レンガの家の前で(こぶた三への対話)
オオカミ「おや?これは……なかなか しっかりしてるな」 「ふぅ……ふぅ……(風を送ってみるが、びくともしない)」 「ふむ、こんどは こわれないか。どうしてこれにしたんだい?」
ねらい:対話のきっかけをつくる。こぶた三の選択を“認める”存在として
こぶたは「どうして壊れたのか」を振り返る
家が壊れたあとは、「失敗したね」で終わらせず、必ず「なぜ壊れたのか」を一緒に振り返る時間を取ります。
「急いで作りすぎたかな?」 「強さのことを考えないで選んじゃった?」 「ちゃんと調べてから作ったら、どうなりそう?」 といった問いかけを通して、子ども自身の言葉で原因と改善点を見つけてもらいます。
こぶた一(わらの家)
こぶた「あ〜あ、すぐできたけど、すぐこわれちゃった……」 「もっと、 ちゃんと考えれば よかったな」 「遊びたいばっかりだったかも……」
こぶた二(木の家)
「木なら 大丈夫って思ったのに……」 「作るのは簡単だったけど、強くなかったんだ」 「ちゃんと調べてから作れば よかったなぁ」
こぶたたちが「どうやってやり直すか」を考えるセリフ
「ねえ、こんどは いっしょに作ってみない?」 「どんな材料が つよいか、調べてみようよ!」 「おとなの人にき聞いてみたら、いいアイデア あるかも!」
「レンガって、どうやって作る のかな?知ってる?」 「もっと調べてから作ろう!」「やり直して、もっと良い家を作ろう!」
エンディング:大人の一言で「やり直せる安心感」を残す
劇の最後には、「失敗しても、もう一度考えてやり直せばいい」というメッセージを、大人の言葉でしっかりと伝えるようにしています。 ナレーター役や保育士が、 「うまくいかないことがあっても、そのたびに考え直して、また作り直せばいいんだよ」 「やり直そうとする気持ちがあれば、家だって、これからの夢だって、きっと少しずつ形になっていくよ」 と語りかけることで、「失敗しても大丈夫」という安心感を、子どもの心に残すことができます。
オオカミとこぶたのやりとりで締める場合
オオカミ: 「おや……こんどの家は、ずいぶんしっかりしてるな」「ふーっ……ふーっ……(吹いてみるが、びくともしない)」「ふむ、これは……壊れないか」
こぶた三: 「こんどは、ちゃんと時間をかけて作ったんだ」 「どうしたら壊れないか、みんなで考えたの!」
こぶた一: 「前は、遊びたくて急いじゃったけど……」 「今は、がんばってよかったって思ってる!」
こぶた二: 「らくちんがいちばんって思ってたけど…… いっしょに作ったら、楽しかったし家も強いのが出来た!」
こぶた三: 「そうか……まちがえても、やりなおせば いいんだな」
オオカミ:「君たちは、負けなかった。 それが一番すごいことだよ」
こぶた三: 「うん! まちがえても、また作ればいいんだよ!」
オオカミ(少し照れながら): 「……こんどは、いっしょに作ってみてもいいかい?
オオカミ: 「おや……こんどの家は、ずいぶんしっかりしてるな」 「ふーっ……ふーっ……(吹いてみるが、びくともしない)」 「ふむ、これは……壊れないか」
こぶた三: 「こんどは、ちゃんと時間をかけて作ったんだ」 「どうしたらこわれないか、みんなで考えたの!」
こぶた一: 「前は、遊びたくて急いじゃったけど……」 「今は、がんばって良かったって思っている!」
こぶた二: 「らくちんが一番って思ってたけど…… いっしょに作ったら楽しいし、家も強くなった!」
オオカミ: 「そうか……まちがえても、やり直せば いいんだな」 「君たちは、負けなかった。 それが一番すごいことだよ」
こぶた三: 「うん! まちがえても、また作ればいいんだよ!」
オオカミ(少し照れながら): 「……こんどは、いっしょに つくってみても いいかい?」
オオカミ: 「おや……こんどの家は、ずいぶん しっかりしてるな」 「ふーっ……ふーっ……(吹いてみるがびくともしない)」 「ふむ、これは……壊れないか」
こぶた三: 「こんどはちゃんと時間をかけて作ったんだ」「どうしたらこわれないか、みんなで考えたの!」
こぶた一: 「前は、早く遊びたいから急いじゃったけど……」 「今は、がんばって良かったって思っている!」
こぶた二: 「らくちんが いちばんって思ってたけど…… いっしょに作ったら、楽しいし家も強くなった!」
オオカミ: 「そうか……まちがえても、やりなおせば いいんだな」 「君たちは、負けなかった。 それが一番すごいことだよ」
こぶた三: 「うん! まちがえても、また作ればいいんだよ!」
オオカミ(少し照れながら): 「……こんどは、いっしょに作ってみても いいかい?」
実践ヒントボックス
このやりとりは、劇のクライマックスやエンディング直前に入れると効果的です。
子どもたちが自分の言葉で言い換えてもOK。“気づき”と“関係の変化”が伝われば成功です。
オオカミが「悪者」から「仲間」になることで、物語にあたたかい余韻が残ります
声かけの仕方
こぶたが失敗したときの声かけ例
「どうして壊れちゃったのかな?」(原因を考えさせる)
「次は、どうやって直そうか?」(解決策を考えさせる)
「誰かに相談してみたら?」(協力の大切さを促す)
「大丈夫、やり直せるよ」(安心感を与える)
オオカミ役の大人の声かけ例
「もう一回、どうやって直す?」 「○○(こぶた)は、どうしたい?」 「○○(こぶた)が困ってるみたいだけど、どうする?」
ポイント
失敗を責めるのではなく、「どうやってやり直すか」にフォーカス。 子どもが「失敗しても大丈夫」と思えるようにする。
劇あそびの実務ノウハウ
劇あそびを始める前に、「今日は三びきのこぶたをやります」と発表するのではなく、まず子どもに問いを投げかけます。
「もし自分の家を作るなら、どんな材料がいい?」 「オオカミみたいな強い風が来たら、どうしたい?」 「もし家が壊れちゃったら、どうしようか?」 といった問いかけをすると、子どもたちは自分の経験や想像と物語を自然につなげていきます。
展開:即興性を活かした進行
物語の展開部分では、細かい台本を用意しすぎず、子どものセリフや動きを拾いながら進めていきます。
こぶた役の子には「どうしてその材料にしたの?」と尋ね、オオカミ役の子には「どうやって試してみたい?」と任せて、子ども自身の言葉とアイデアを生かします。
家が壊れた場面では、「このあと、どうする?」と観客の子どもにも問いかけ、みんなで考えながら物語を進めることを意識しています。
小道具・舞台づくりは「一緒に作る」ことが学び
小道具や舞台づくりは、既製品を用意するだけでなく、子どもと一緒に作ること自体を活動に組み込むと、物語への愛着がぐっと深まります。
たとえば、 ・わらの家:新聞紙を細く丸めて束ねる ・木の家:段ボールや牛乳パックを積み上げる ・レンガの家:ティッシュ箱や積み木を並べる ・オオカミの風:うちわや安全に配慮した小型扇風機を使う。
こんな工夫をすると、「自分たちで作った家だからこそ、壊れたときに本気で悔しがり、本気でやり直そうとする」姿が見られます。
セリフは「きっかけ」でOK
ポイント: セリフは覚えさせるのではなく、子どもが自分の言葉で語れるように“きっかけ”を用意します。
「どうしてその家にしたの?」
「こわれたとき、どう思った?」
「こんどはどうする?
子どもと作る今どきの「さんびきのこぶた」
家づくりの材料は原作通りわら、木、レンガでみいいけれど子ども達の自由な発想を育てるために良いのですが、思い切り自由な発想で面白いので家を作ってみようよ。と声をかけました。
