『おむすびころりん』にコメ券を入れたら、子どもが社会を語り出した

未分類

昔話は、いつも“今”を語っている

「コメ券って、何人分もらえるの?」「うちの赤ちゃん、ミルク飲んでるけどもらえるの?」「市役所から送ってくるんだって!」

最近、保育の現場で、こんな子どもたちの声を耳にしました。ニュースで話題になった「コメ券」の配布。

ちょうどその時、昔話『おむすびころりん』を題材にした劇あそびをやっていました。

子どもたちは、テレビニュースを見たり、家庭で交わされる会話や社会の空気を敏感に感じ取り物語の中に入れ込んできました

『おむすびころりん』とコメ券、どうつながるの

コメ券って、子どもにとってどんな存在

「コメ券」とは、物価高対策として配布される“お米の引換券”。おとなにとっては生活に直結する深刻な話ですが、子どもたちにとっては、なんだか不思議でワクワクする存在です。

「コメ券を持ってると手の中からお米がザクザク出てくるのかなあ」「ぼく、売って稼いでお金持ちになってゲーム買うんだ!」「わたしは、ディズニーランドに行く!」

子ども達の頭の中はコメ券を売って、大金持ちになる夢が大きく膨らんでいきます。

劇あそびで“コメ券”が登場するとどうなる?

コメ券つきおむすびが登場したら、物語はどう動くか

おむすびころりん』を劇あそびにする際、 おばあさんが、おむすびに「コメ券」と書いて渡すところから始めました。

おばあさん:「今日は特別よ。“コメ券”って書いておいたから、落とさないようにね」

おじいさんは首をかしげながら山へ。 そして、おむすびを落とすと── ねずみたちが大騒ぎ!

「コメ券つきのおむすびが落ちてきた!」 「コメ券あれば餅米がどんどん出てくるよ」「もちつき大会しよう!」

コメ券の効果は大きい。物語が一気に動き出す。 子どもたちは、もちつきの歌をつくり、踊り、笑いながら物語をふくらませていきます。

即興劇台本:『おむすびころりん2025──コメ券のひみつ

登場人物(配役は自由に増減OK)

  • 良いおじいさん
  • 良いおばあさん(コメ券の書き手)
  • 悪いおじいさん
  • 悪いおばあさん(ちょっとズルい)
  • ねずみたち(何匹でもOK)
  • もちつき係、歌係、見守り役など自由に追加可

語り手(先生や子どもでもOK)
あらすじと劇あそび進行の流れ(即興を活かす構成)


場面①:おばあさんとおじいさんの朝 
おばあさんは、「コメ券」と書いた紙でくるんだおむすびをおじいさんに渡す。

おばあさん:「おじいさん、今日は特別のおむすびですよ。これさえあれば、いつでもお米がもらえるのですからね。落とさないでね」
おじいさんはコメ券おむすびを持って山へ行く。

場面②:おむすび転がる 
おじいさんが、一休みしようと思って腰をおろしたとたん、おむすびはころころころりんと転がり、ねずみ穴に落ちる。

場面③:ねずみの国。ねずみ達は餅つき大会する
ねずみ達「コメ券つきだー!」「おじいさん、ありがとう」

ねずみ達は餅つき大会をする。臼のまわりで歌って踊る。餅つき歌を即興で歌う。踊りも即興。おじいさんは、コメ券をねずみにあげて代わり宝物をもらって帰る。

場面④:良いおじいさん、おばあさんの家。悪いおじいさん、こっそり見ている
悪いおじいさん:うちのおばあさんにコメ券、作ってもらおう。

場面⑤:にせコメ券作り
おばあさんは、コメ券を作るが、「コメ犬」と書いておむすびを包む。おじいさんはコメ犬おむすびを持って山へ行き、おむすびを転がす。

場面⑥ねずみの国、コメ犬事件発生! 悪いおじいさんが持ってきたおむすびには、「コメ犬」と書いてある。 ねずみたちが開けると──

「わっ!犬だー!!」 「ぎゃー!追いかけてくるー!」 「もちつき中止ー!避難ー!」

ねずみたちは大パニック。 おじいさんはあわてて逃げ帰る

場面⑦:家に帰ってきたおじいさんとおばあさん

おばあさん:「あんた、お宝、もらってきたの?」

おじいさん:「……犬に追いかけられて、なにも…」

おばあさん:「なにそれ!“コメ犬”って書いたの、あたしじゃないよ!」

ふたりはしょんぼり。 でも、ここで劇は終わりません。語り手または先生が問いかける:

「さて、ふたりはどうなったでしょう?」 「みんなだったら、どうする?」 「コメ券って、なんだったと思う?」

ここからは、子どもたちの“今の気持ち”が物語を動かします。 「もう一回チャンスをあげる」「犬を飼う」「ねずみに謝る」「もちを返す」── どんな展開になるかは、その日、その子たち次第。

このように、笑いと混乱の中に“問い”が立ち上がる構成にすることで、 子どもたちの即興力・想像力・社会的感覚が自然に引き出されます。

劇あそびは、子どもが社会と出会う場

劇あそびで、子どもは何を学んでいるの?

「コメ券って、家族が多いとどうなるの?」 「赤ちゃんももらえるの?」 「ズルした人は、また来ていいの?」 「もちつき券って、何回使えるの?」

──これは、ある日の劇あそびのあと、子どもたちがぽつぽつと話し始めた言葉です。

『おむすびころりん』という昔話に、 “コメ券”という今の話題を入れただけで、 子どもたちは、自分の暮らしと物語をつなげて考え始めました。

「うちは2枚しかもらえない」 「お母さんが、売ったらお金になるって言ってた」 「ズルしたのに、また来たらダメでしょ」 「でも、もち食べたい気持ちは同じじゃん」

子どもたちは、遊びながら、現実を見ている。 そして、その現実を、物語の中で試してみている。

劇あそびは、子どもが“今の社会”と出会う場所。 昔話は、その出会いを受け止める“器”なのだと、私は思います。

まとめ:昔話は、今を生きる子どもたちの“今話”

  • コメ券は、ただの紙じゃない
  • 気持ちがこもっているから、もちがふくらむ
  • ズルをしたら、信頼が壊れる
  • 許すには、時間と行動が必要
  • 答えは、毎回ちがっていい

昔話は、今を生きる子どもたちの“今話”。 そして、劇あそびはその“今”を語る舞台です。

子どもたちは、ただ遊んでいるのではありません。 社会の空気を感じ、信頼や不信、分け合いの意味を、自分の体と心で確かめているのです。

コメ券という“紙切れ”が、子どもたちの手に渡るとき、 それはもう、ただの制度ではなくなります。 気持ちがこもったしるしとして、物語を動かし、人と人をつなぐ“鍵”になるのです。

だから、劇あそびは毎回ちがっていい。 その日、その子の“今”が、いちばんの物語なのです。

語り手のあとがき

子どもは、天使なんかじゃない。 ちゃんと見ている。ちゃんと聞いている。 そして、ちゃんと考えている。

だから私は、子どもの言葉を“かっこよく”言い換えない。 そのままの声に、耳をすます。 そこにこそ、今を生きる真実があると信じているから。

昔話を子どもたちに語り続けていると、いつも不思議に思うのです。 昔話は古い話ではない。

まさに今を生きる子どもたちやおとなが、どう生きればよいかを、 わかりやすく語ってくれているのです。

この実践の背景や、子どもたちの声をもっと知りたい方は、 拙著『昔ばなしは今ばなし』(浜島代志子著・大月書店刊)も、よろしければご覧ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました