📌 本記事は著者の55年以上の演劇・語り芝居の現場体験に基づく個人の見解です。実践の際は各現場の状況に合わせてご活用ください。
✅ この記事でわかること
- 昔話は、いつも“今”を語っている
- なぜ『おむすびころりん』に“コメ券”を組み込んだのか
- 劇あそびに“コメ券”を登場させたときの変化
- 実際の劇あそびの流れと台本の作り方
昔話は、いつも“今”を語っている
ある日の保育園の朝の会で、5歳児の男の子が突然こう言いました。
「お母さん、コメ券って何人分もらえるの?」 その子の隣に座っていた女の子が「うちは2枚だけだった」と返すと、ほかの子どもたちも「うちも」「赤ちゃんももらえるの?」と、コメ券の話で一気に盛り上がりました。
ちょうどその週、年長クラスでは昔話『おむすびころりん』を使った劇あそびの準備を進めており、子どもたちは家庭で聞いた“コメ券”の話を、物語の中に自然に取り入れ始めました。
なぜ『おむすびころりん』に“コメ券”を組み込んだのか
💡 現場からのポイント
子どもたちが物語の中で「選択する場面」を体験すると、思考力・共感力・自己表現力が自然と育まれます。語り芝居は、答えを教えるのではなく、子ども自身が考える時間を生み出す場です。
子どもにとって“コメ券”とは何か
「コメ券」は自治体が配布するお米の引換券ですが、子どもにとっては「不思議な紙」「わくわくする紙」。
- 「手の中からお米がザクザク出てくるのかな」
- 「売って稼いでゲームを買う!」
- 「ディズニーランドに行きたい」
子どもたちの頭の中では、 コメ券=大きなお金・自由に使えるもの として受け止められていました。
今の子ども達は“お金になる話”に敏感で、普段おとなしい子も身を乗り出して話に入ってきます。20年前にはあまり見られなかった反応です。
| 対象 | 活動内容 | 育つ力 |
|---|---|---|
| 保育園・幼稚園 | 読み聞かせ・人形劇 | 想像力・感情表現 |
| 小学校低学年 | 劇あそび・ごっこ遊び | 共感力・協調性 |
| 小学校高学年〜中学生 | 語り芝居・ミュージカル | 自己表現・意思決定力 |
劇あそびに“コメ券”を登場させたときの変化
コメ券つきおむすびが登場したら、物語はどう動くか
劇あそびの冒頭で、おばあさんが「今日は特別なおむすびよ。“コメ券”って書いてあるからね」と渡す場面を入れました。
ねずみたちは大騒ぎになり、「コメ券があれば餅米がどんどん出てくる!」 「もちつき大会をしよう!」 と歌や踊りを即興で作り始めました。
“コメ券”という現代的なキーワードが入ることで、 物語の展開が一気に動き出し、子どもの想像力が跳ね上がる。
はじめは「売ってお金持ちになる」話ばかりだった子どもたちが、 劇あそびを通して 「みんなでやろう!」 という気持ちに変わっていきました。
実際の劇あそびの流れと台本の作り方
この劇あそびでは、登場人物を次のように設定しました。配役はクラスの人数や子どもの希望に合わせて、自由に増減できます。
● 登場人物
(良いおじいさん/良いおばあさん/悪いおじいさん/悪いおばあさん/ねずみたち/裏方/語り手)
あらすじと劇あそび進行の流れ(即興を活かす構成)
● ①:おばあさんとおじいさんの朝
(興味関心を引き出す語りかけ)
おばあさんが「今日は特別なおむすびよ。これさえあれば、いつでもお米がもらえる“コメ券”がついているからね。落とさないように気をつけて」と言いながら、おむすびに“コメ券”の紙を巻いておじいさんに手渡す場面から始めます。
このとき、おじいさん役の子どもには「コメ券って何?」「本当にいつでもお米がもらえるの?」といったセリフをアドリブで語りかけるようにしてもらうと、周りの子どもたちの興味関心がぐいっと高まります。
おじいさんは、コメ券つきのおむすびを持って山へ向かいます。
興味関心を持たせることが幼児教育にはとても大事なことです。語りかけには子どもの興味関心を引き出す威力があるのです。
●場面②:おむすびがねずみ穴に落ちる
(問いかけで想像を促す)
おじいさんが山道で一休みしようとして腰をおろしたとき、おむすびは「ころころころりん」と転がり出し、ねずみの穴の中へ消えていきます。
ここで保育者が「おむすびはどこに行ったのかな?」「穴の中には誰がいるかな?」と問いかけながら進めると、子どもたちは次の場面を話し出します。
●場面③:ねずみの国で餅つき大
(即興の歌・踊り・アイデア)
おむすびが転がり落ちた先は、ねずみたちの国でした。ねずみたちは「コメ券つきのおむすびだ!」「おじいさん、ありがとう!」と口々に叫び、特別なおむすびが来たことを喜びます。
子どもたちは、「コメ券があれば餅米がどんどん出てくる」「みんなでお餅をついてお祭りをしよう」とアイデアを出し合い、臼のまわりで好きなように歌い、踊り始めました。
ここでは、おじいさんがコメ券をねずみたちに渡し、その代わりに宝物をもらって帰る、という大きな流れだけを決めておき、途中の歌やセリフは子どもたちの即興に任せました。
参考:私が作った餅つき歌です。よろしければお使いください。
♪百になっても千になっても ワンワンの声は聞きたくねえ ワンワンの声は聞きたくねえ しととん しととん しととんとん
●場面④:良いおじいさんの家と、こっそり見ている悪いおじいさん
おじいさんが宝物を持って帰ると、おばあさんは「まあ、こんなにたくさん! どうしたの?」と驚きながら迎えます。
ふたりが、ねずみの国での出来事や“コメ券”の話でもちきりになっている様子を、陰からじっと見つめているのが悪いおじいさんです。
悪いおじいさんは「うちのおばあさんにもコメ券を作ってもらえば、もっとたくさん宝物が手に入るぞ」と考え、こっそりまねをしようと決めます。
●⑤:にせ“コメ券”づくりと「コメ犬」事件のはじまり
悪いおじいさんは家に戻ると、おばあさんに「おい、あの“コメ券”というのを書いてくれ。もっとたくさん宝物がほしいんだ」と頼みます。
慌てた悪いおばあさんは、よく確かめないまま紙に文字を書き、おむすびを包みましたが、そこには「コメ券」ではなく「コメ犬」と書かれていました。
悪いおじいさんは文字の違いに気づかず、「これで自分も大金持ちだ」と言いながら、“コメ犬”おむすびを持って山へ向かいます。
●⑥:ねずみの国で“コメ犬”パニック発生
悪いおじいさんのおむすびがねずみの国に転がり落ちると、ねずみたちは「またコメ券つきのおむすびだ!」と大喜びで紙を開きます。
ところが、中から飛び出してきたのは「コメ券」ではなく、「コメ犬」と書かれた札と、一匹の元気な犬でした。
「うわっ、犬だ!」「追いかけてくるー!」「餅つき中止! みんな逃げろ!」と、ねずみたちは大パニックになり、悪いおじいさんも慌てて逃げ帰ることになります。
●⑦:しょんぼりしたふたりと、子どもたちの“つづきの物語”
家に戻った悪いおじいさんに、おばあさんは「宝物、たくさんもらってきたんでしょ?」と期待を込めてたずねます。
しかし、おじいさんは「犬に追いかけられて、何ももらえなかった…」とうなだれ、おばあさんも「“コメ犬”って書いた覚えなんてないのに」と、ふたりでしょんぼり座り込んでしまいます。
ここで語り手(先生や子ども)が「さて、このふたりはどうなったでしょう? みんなだったら、どうする?」と問いかけ、子どもたちが自由に“つづきの物語”を考える時間に入ります。
ここからは、子どもたちの“今の気持ち”が物語を動かします。 「もう一回チャンスをあげる」「犬を飼う」「ねずみに謝る」「もちを返す」── どんな展開になるかは、その日、その子ども達次第。
このように、笑いと混乱の中に“問い”が立ち上がる構成にすることで、 子どもたちの即興力・想像力・社会的感覚が自然に引き出されます。
日本の昔話は西洋のそれと違ってその後の展開を考える物語が多いのです。だから、子ども達に様々な展開をさせてみると子どもの想像力を育てるうえで大きな効果を期待できます。気楽に楽しくやってみましょう!
劇あそびは、子どもが“今の社会”と出会う場
劇あそび後の振り返りでは、子どもたちからこんな質問が出ました。
- 「家族が多いとどうなるの?」
- 「赤ちゃんももらえるの?」
- 「ズルした人は、もう一回行っていいの?」
- 「もちつき券は何回まで?」
これらはすべて、 制度・公平さ・権利・許し といった社会のテーマにつながっています。
劇あそびは、 遊びながら現実を見つめ、物語の中で試し直す場。
まとめ:昔話は、今を生きる子どもたちの“今話”になる
今回の実践で子どもたちは、
- コメ券は「分け合う仕組み」が込められた紙
- ズルをすると信頼が壊れる
- 許してもらうには行動が必要
- 正解は一つではない
こうした“社会の感覚”を体で学んでいました。
昔話は「昔の話」ではなく、 今をどう生きるかを差し出してくれる物語。劇あそびは、 子どもが物語と現実を行き来しながら、 自分の気持ちを確かめる旅です。
語り手である私は、 その旅に寄り添いながら、 子どもたちから学び続けています。
※写真は著者本人が撮影したものです。
『昔ばなしは今ばなし』(浜島代志子著・大月書店刊)昔話を子ども達に語った際の体験談が満載です。よろしければご覧ください
✅ まとめポイント
- なぜ『おむすびころりん』に“コメ券”を組み込んだのか
- 劇あそびに“コメ券”を登場させたときの変化
- 実際の劇あそびの流れと台本の作り方
- 劇あそびは、子どもが“今の社会”と出会う場
※本記事は著者の体験・見解に基づく情報提供を目的としています。実践の際は各現場の状況や子どもの発達段階に合わせてご活用ください。


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