昔話と人形劇で育む「共に生きる力」──保育現場から学ぶ『ねずみのすもう』の実践と効果

昔話を劇にする
  1. はじめに|昔話は心に火をともす“見えない先生”
    1. あらすじ:与え合う心がつなぐ小さな命の物語
    2. 物語が伝える“心の循環”──与えることで広がる幸せ
  2. 語りの現場で感じた“届く瞬間”
    1. 語りの場面と子どもの反応
    2. 共感が生まれる瞬間──“弱さ”を通して学ぶ力
  3. 人形劇という“体感型学び”の力
  4. セリフ付き台本(場面ごとの構成)
    1. 場面1|痩せたねずみ、負けて帰る
    2. 場面2|おじいさん、山でねずみの相撲を見る
    3. 場面3|おじいさんとおばあさん、餅をつく
    4. 場面4|痩せたねずみが勝つ
    5. 場面5|太ったねずみ、家族になる
    6. 場面6|太ったねずみ、庄屋の蔵からお金を持ってくる
    7. 場面7|みんなで仲良く暮らす
  5. 人形に“いのち”が宿る瞬間
    1. 人形劇が育てる力(感情・協力・創造)
      1. 感情──「ぼく、悔しい」「わたし、うれしい」
      2. 協力──「一緒にやろう」「せーので動かそう」
      3. 創造──「こんな顔にしよう」「餅つきの音はどうする?」
    2. 保育室が舞台になる──実践の広がり
    3. 語りと劇の融合──見えない“心の劇場”
  6. 保育者のためのQ&A──語りと人形劇、どう始める?
    1. Q1:昔話を語るのが初めてです。どう始めたらいいですか?
    2. Q2:人形劇の準備が大変そう…簡単にできますか?
    3. Q3:セリフが長いと覚えられない子もいます。どうしたらいいですか?
    4. Q4:人形劇をする時間がとれません。語りだけでもいいですか?
    5. Q5:子どもたちがふざけてしまうことがあります。どう対応したら?
  7. まとめ|昔話が教える“心を編む力

はじめに|昔話は心に火をともす“見えない先生”

現代の保育現場では、デジタル教材や映像遊びがあふれています。 しかし、温度のある言葉で語られる昔話ほど、子どもの心を動かすものはありません。

私が長年語りの現場で感じてきたのは、「声だけで十分、子どもたちの心は動く」という事実です。

実際、私が初めて昔話の語りを実演した時のことです。絵本も紙芝居も何も持っていない私を見てざわついていましたが、「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。二人はとても貧乏でしたが、土間のネズミを息子みたいにかわいがっていました」と語り始めると、ザワザワが波が引いたように静かになり、耳を傾け、終わりの頃には体を前に傾けて聞いてくれました。

あらすじ:与え合う心がつなぐ小さな命の物語

物語『ねずみのすもう』は、貧しくても優しさを忘れないおじいさんとおばあさん、そして心のまっすぐなねずみのお話です。

おじいさん夫婦は、自分たちの食べ物も少ない中で、まるでわが子のように痩せたねずみの世話をします。 ねずみは太ったねずみに何度も負けて悲しみますが、老夫婦の愛情が力に変わり、やがて再挑戦して勝利します。 勝ち負けを超えて友情が芽生え、助け合い、分かち合うことで皆が幸せになる──。

おじいさんとおばあさんが、ねずみのために餅をつく場面では、「僕もついてあげるよ!」「わたしもつく!」ひとりが言い出すとクラス全員がぺったんぺったん、とお餅をつく動作をしました。

この場面での餅つきはフィリピンでも子ども達も先生もやってくれました。昔話は世界の壁を超えると実感しました。

物語が伝える“心の循環”──与えることで広がる幸せ

この昔話の魅力は、愛が循環していく姿にあります。 おじいさんとおばあさんが惜しまず与えた餅が、ねずみに力を与え、ねずみがまた新たな優しさを届ける。

「与えることは失うことではなく、つながること」──そのメッセージが、物語全体を包んでいます。 子どもたちはこの話を通して、思いやる心が誰かを救い、自分をも成長させることを自然に学びます。

語りの現場で感じた“届く瞬間”

語りの場面と子どもの反応

ある冬の日、私は保育室で『ねずみのすもう』を語りました。 最初は落ち着かなかった子どもたちの目が、話が始まると途端に真剣に変わりました。 ねずみが負ける場面で「かわいそう」と声が上がり、餅をもらう場面では「これで勝てるね」と励ます声が響きました。 語りは単なる読み聞かせではなく、子ども同士の心を結ぶ“共有の時間”になります。 その瞬間、物語は子どもの中で「生きて」います。

語り終わったあと、子ども達は「このおじいさん、やさしいね」「長者のねずみ、もう、さびしくないね」と、顔を見合わせて話していました。

保護者の方からは「貧乏でも優しくすれば、大金持ちになれるんだね」「私も優しい人になろう」などと子どもが言うので驚いたといううれしい報告がありました。物語の影響力を実感しました。

共感が生まれる瞬間──“弱さ”を通して学ぶ力

この物語に子どもたちが惹かれる理由は、登場する誰もが“弱さ”を抱えているからです。 ねずみは負けて悔しがり、おじいさんたちは困窮の中でも思いやる。 その優しさが巡って新しい絆を生みます。

「強さ」ではなく「優しさ」が勝つ──その構図が、子どもの心に深く響くのです。

劇の稽古中のことです。負ける役の子が「負けるばかりの役、いやだ。やりたくない!」と座り込んで泣きそうになった時、おじいさん役の子が『お餅ついてやるから元気出せ』おばあさん役の女の子は「もう少しの辛抱だから負けてよ」とまるで母親のような口調で言いました。

「じゃ、いいよ。負けてあげる」とやせたねずみ役の子。「えらいね。痛くないように投げるから上手く受けてよ」と長者どんのねずみ役の子。

子ども達が物語の中でお互いを認め合い励まし合い、仲間といっしょに前進する姿を見て心があたたかくなりました。

人形劇という“体感型学び”の力

語りを終えたあと、「ぼくやる!」「わたし、おばあさんの声まねできる!」と声が上がるとき、物語はすでに子どもの中で動き始めています。

その瞬間を逃さずに、人形劇として形にすることで、学びが深まります。 紙袋・フェルト・割り箸で人形を作り、テーブルに布をかけるだけの簡単な舞台。 子どもたちは役になりきり、自分でセリフをつけ、みんなで動きを合わせます。

「協力する喜び」「工夫する楽しさ」「感情を共有する面白さ」が、この実践の中に詰まっています。

セリフ付き台本(場面ごとの構成)

各場面は「太ったねずみが威張る → 痩せたねずみが負ける → おじいさんとおばあさんの優しさ → 痩せたねずみが再挑戦 → 仲間になる → 家族として暮らす」という流れで構成されています。

実際に人形劇にするときは、台詞を短く区切り、繰り返し言える言葉を入れると、子どもたちが自然と覚えて一緒に声を出してくれます。

場面1|痩せたねずみ、負けて帰る

太ったねずみ「さあ、今日も勝負だ!おまえなんか、ひとひねりだ!」

痩せたねずみ「なにを!今日は負けないぞ!」

みんなで「はっけよい、のこった!」

太ったねずみ「それっ!とうっ!」

痩せたねずみ「うわっ…!」(投げられて転がる)

痩せたねずみ(しょんぼり)「はあ…また負けちゃった。ぼく、どうしてこんなに弱いんだろう…」

場面2|おじいさん、山でねずみの相撲を見る

おじいさん「今日は薪を拾いに来たが…ん?あれは何だ?」

おじいさん(木の陰からのぞきながら)「痩せたねずみが、また負けてる…悔しそうな顔して…」

太ったねずみ「おらの勝ちだ!おまえなんか、いつだって負けっぱなしだ!」

痩せたねずみ「ぼく、強くなりたいのに…」

おじいさん(心の声)「あの子に、力をつけてやりたい…よし、餅をついて食べさせよう」

場面3|おじいさんとおばあさん、餅をつく

おじいさん「また負けたのかい?かわいそうに…」

おばあさん「正月の神様に供える餅米だけど…あの子に食べさせてあげましょう」

おじいさん「そうだな。あの子は、うちの息子みたいなもんだ。

二人で「ぺったん、ぺったん!よいしょ、よいしょ!」

おばあさん「できあがり!ねずみさん、おあがり。これで元気が出るよ」

場面4|痩せたねずみが勝つ

太ったねずみ「また来たのか?今日も負けるぞ!」

痩せたねずみ「今度こそ、負けないぞ!」

みんなで「はっけよい、のこった!」

痩せたねずみ「それっ!えいっ!」

太ったねずみ「うわっ…!」

痩せたねずみ「やった!勝った!ぼく、強くなったんだ!

太ったねずみ「すごいな…どうしてそんなに強くなったんだ?」

痩せたねずみ「おじいさんとおばあさんが、餅をついてくれたんだ」

場面5|太ったねずみ、家族になる

太ったねずみ (しばらく黙って)「……おらも餅、食いたい」

おじいさん「おばあさん、太ったねずみが餅を食べたいそうじゃ」

おばあさん「はいはい。あの子にも食べさせましょう」

二人で「ぺったん、ぺったん!よいしょ、よいしょ!」

おじいさん「ほら、おあがり!」

太ったねずみ「えっ…おらにも?」

場面6|太ったねずみ、庄屋の蔵からお金を持ってくる

太ったねずみ「おら、こんなに優しくしてもらったのは初めてだ… お礼に、庄屋の蔵から金を持ってこよう」

太ったねずみ「よいしょ、よいしょ…これだけあれば、きっと喜んでくれる」

太ったねずみ「おじいさん、おばあさん!これ、おらからのお礼じゃ!」

おじいさん「まあまあ、こんなにたくさん…!」

おばあさん「庄屋のねずみさん、ありがとう。これで、みんなで豊かに暮らせるね」

場面7|みんなで仲良く暮らす

ナレーション(語り手)「それからというもの── おじいさんとおばあさんは、大金持ちになっても、毎日まじめに働きました。 二匹のねずみは、まるで本当の息子のように、家族として仲良く暮らしました」

痩せたねずみ「おじいさん、おばあさん、今日も畑に行くの?」

おじいさん「そうじゃ。働くことは、心の餅つきみたいなもんじゃ」

太ったねずみ「おらも手伝うぞ!」

おばあさん「みんなで働いて、みんなで食べて、みんなで笑う──それが一番の幸せじゃ」

みんなで「さあ、今日も元気に暮らそう!」

(歌いながら手をつなぎ、舞台を閉じる)

人形に“いのち”が宿る瞬間

人形劇が育てる力(感情・協力・創造)

人形劇の最大の魅力は、子どもたちが自分の手で命を吹き込む点にあります。 作りながら、子どもたちは「どんな顔にしよう」「どう動かそう」と考え、表現力が自然に育ちます。

セリフを合わせるときはチームワークが生まれ、負けそうなねずみを応援する声があがる。 その場はもう、単なる遊びではありません。 そこに生まれるのは、命のやりとり、心の交流です。

感情──「ぼく、悔しい」「わたし、うれしい」

ある日、『ねずみのすもう』を語ったあと、子どもたちと人形劇を始めました。 痩せたねずみが負ける場面で、演じていた子が人形を見つめながらぽつりと言いました。

「かわいそう…ぼく、負けるのいやだな」 その声に、隣の子がすぐに応えました。 「餅食べたら、元気になるよ!」 子どもたちは、登場人物の気持ちを自分のことのように感じているのです。

餅を食べて勝った場面では、「やったー!」とガッツポーズ。 太ったねずみが仲間になる場面では、「仲間になれてよかったね」と、演じながら涙ぐむ子もいました。

人形を通して、子どもたちは感情を受け止め、言葉にし、分かち合っていきます。

協力──「一緒にやろう」「せーので動かそう」

人形劇は、ひとりではできません。 ある保育室では、役を決めるときに「ぼくが太ったねずみやる!」「じゃあ、わたしはおばあさん!」と、自然に役を分け合っていました。

セリフを覚えるのが難しい子には、隣の子がそっと教えてあげる 「せーの!」で人形を動かすと、みんなの笑顔がそろう。 セリフがずれても、誰かが「もう一回やろう!」と声をかける。 人形劇の中で、子どもたちは“協力する喜び”と“仲間とつながる力”を育てていきます。

創造──「こんな顔にしよう」「餅つきの音はどうする?」

人形づくりの時間は、創造の宝庫です。 ある子は、痩せたねずみの顔に涙のしるしを描いていました。「負けて悔しいから、泣いてるの」──その表現に、先生たちは思わず見入ってしまいました。

餅つきの音をどうするか話し合ったとき、「ぺったん、ぺったん!」「よいしょ、よいしょ!」と、子どもたちが自分たちでリズムを考えました。 舞台は、テーブルに布をかけただけ。

でも、そこに命が宿ると、子どもたちは本気になります。

「できた!」「うまくいった!」という達成感が自分を信じる力=自己肯定感につながっていきます。

人形劇は、語りの世界を“目に見える命”に変えてくれます。 子どもたちは、動く人形に命を感じ、心を動かされます。 悔しさに寄り添い、喜びを分かち合い、仲間になる喜びを感じる── それは、語りと人形劇が育てる“人とつながって生きる力”です。

保育室が舞台になる──実践の広がり

語り終えたあと、子どもたちが「やってみたい!」と目を輝かせる瞬間があります。 その声に応えて人形劇を始めると、保育室の空気が変わります。

そこはもう、ただの部屋ではなく、“命と心が響き合う劇場”になります。

ある日、『ねずみのすもう』を語ったあと、私はそっと問いかけました。 「ねずみさんの劇、やってみる?」 すると、子どもたちは一斉に立ち上がり、「やる!」「ぼく、太ったねずみ!」「わたし、おばあさん!」と、役を分け合い始めました。

舞台は、テーブルに布をかけただけ。 人形は、紙袋やフェルト、割り箸で作ったもの。 でも、子どもたちが命を吹き込むと、それは本物のねずみになり、おじいさんになり、おばあさんになります。

セリフを覚え、動きを考え、仲間と息を合わせる。 「せーの!」で人形を動かすと、笑顔がそろい、心がそろいます。 セリフを忘れても、隣の子がそっと教えてくれる。

「もう一回やろう!」と声をかける子もいます。 そのやりとりの中に、協力・表現・創造・感情の理解が自然に育っていきます。

劇が終わったあとも、物語の世界は保育室に残ります。 「餅つきごっこ」「ねずみのおうちづくり」「お金を持ってくる場面の再現」── 遊びが広がり、物語が日常に根づいていきます。

ある子は、太ったねずみの人形を抱きながら言いました。 「この子、仲間になれてよかったね」 その言葉に、私は胸が熱くなりました。 子どもたちは、物語の中で“人とつながる喜び”を体験しているのです。

この実践は、どの保育室でもできます。 特別な設備はいりません。 語ってみてください。演じてみてください。 保育室が、命と心が育ち合う舞台になります。

語りと劇の融合──見えない“心の劇場”

語りが心の中に物語を描き、人形劇がそれを目に見える形に変えます。 この二つが重なることで、子どもたちは深く物語を理解し、自分の感情を言葉や動きで表現できるようになります。

セリフを忘れた子を、隣の子がそっと助け、動きがずれても「もう一回!」と声が上がる。 その小さなやりとりこそ、協力と優しさの学びです。 語りと劇は、心と言葉の両方から子どもを育てる“最強の組み合わせ”です。

保育者のためのQ&A──語りと人形劇、どう始める?

Q1:昔話を語るのが初めてです。どう始めたらいいですか?

まずは自分が気に入った昔話を1つ選び、声に出して読むことから始めましょう。絵本を手元に置いたままでも構いません。大切なのは“完璧に暗記すること”ではなく、“登場人物の気持ちを感じながら語ること”です。

おすすめは、短くて情景が浮かぶ昔話。 『ねずみのすもう』は、語りやすく、子どもたちの心にすっと届きます。 負けて悔しいねずみ、餅をついてくれるおじいさん、仲間になる太ったねずみ── 語っているうちに、あなた自身の中にも物語が根づいていきます。

Q2:人形劇の準備が大変そう…簡単にできますか?

はい、できます。 人形劇は、立派な舞台や高価な人形がなくても始められます。 むしろ、保育室にあるものだけで作る方が、子どもたちの創造力がぐんと育ちます。

私は、紙袋・フェルト・割り箸・色紙──そんな身近な素材で、何度も人形劇をしてきました。 テーブルに布をかければ、そこが舞台。 子どもたちが「ぼくのねずみは泣いてる」「わたしのおばあさんは笑ってる」と、自分の人形に命を吹き込んでいきます。

人形作りでは、フェルトが足りず急きょ紙で代用したことがありました。しかし「紙でもかわいい!」と子どもたちが言い合い、助け合って舞台作りを進めていく姿に、自由な発想と協力の力を感じました。

大切なのは、“本物らしさ”ではなく、“心が動くこと”。 人形が動くと、子どもたちは命を感じます。 セリフを言うと、気持ちが動きます。 仲間と合わせると、つながる喜びが生まれます。

先生が「やってみよう」と思えば、もう準備は半分終わっています。 完璧じゃなくていい。心がこもっていれば、子どもたちはちゃんと受け取ってくれます。

Q3:セリフが長いと覚えられない子もいます。どうしたらいいですか?

大丈夫です。覚えられなくても、心が動いていれば、それで十分です。 人形劇は、“セリフを言うこと”より、“気持ちを伝えること”が大切なんです。

私は、セリフを忘れた子が黙ってしまったとき、隣の子がそっと「こう言うんだよ」と教えている場面を何度も見てきました。 そのやりとりこそが、人とつながる力の芽生えです。

セリフは短く、リズムのある言葉にすると覚えやすくなります。 「はっけよい、のこった!」「ぺったん、ぺったん」「おらも餅、食いたい」── 子どもたちは、こうした言葉を遊びの中で自然に口にします。

もし言えなくても、動きや表情で気持ちは伝わります。 「負けて悔しい」「仲間になれてうれしい」──その感情が伝われば、劇はちゃんと“生きて”います。

先生が「大丈夫だよ」「気持ちがこもってたね」と声をかけるだけで、子どもたちは安心して、また挑戦しようと思えます。

語りも人形劇も、心が動くことがいちばん。 セリフは、その“おまけ”です。

Q4:人形劇をする時間がとれません。語りだけでもいいですか?

大丈夫です。覚えられなくても、心が動いていれば、それで十分です。 人形劇は、“セリフを言うこと”より、“気持ちを伝えること”が大切なんです。

私は、セリフを忘れた子が黙ってしまったとき、隣の子がそっと「こう言うんだよ」と教えている場面を何度も見てきました。 そのやりとりこそが、人とつながる力の芽生えです。

セリフは短く、リズムのある言葉にすると覚えやすくなります。 「はっけよい、のこった!」「ぺったん、ぺったん」「おらも餅、食いたい」── 子どもたちは、こうした言葉を遊びの中で自然に口にします。

もし言えなくても、動きや表情で気持ちは伝わります。 「負けて悔しい」「仲間になれてうれしい」──その感情が伝われば、劇はちゃんと“生きて”います。

先生が「大丈夫だよ」「気持ちがこもってたね」と声をかけるだけで、子どもたちは安心して、また挑戦しようと思えます。

語りも人形劇も、心が動くことがいちばん。 セリフは、その“おまけ”です。

Q5:子どもたちがふざけてしまうことがあります。どう対応したら?

ふざけているように見えても、実はそうじゃないことが多いんです。 子どもたちは、興奮しているんです。やりたい気持ちがあふれて、体が先に動いてしまう。 それは、物語が心に届いた証です。

人形劇の稽古が始まると、急に大声を出したり、ふざけた動きをする子がいます。 でも、よく見ていると、ちゃんと話を聞いていて、役の動きを真似していたり、セリフを口にしていたりします。

子ども達は、脱線が大好き。「その餅、いちご大福がいいよ」「大福よりみたらし団子がいい!」「笹団子!」「西瓜アイス!」「西瓜よりメロン」「メロンは高いから、うちのお母さん、買ってくれない」

想像が想像を呼び、連想ゲーム状態.ワイワイガヤガヤが3分ぐらいで一段落した感じになり、練習しようと誰かが言い出し、以前より熱心に稽古が続きます。

子ども達の脱線は想像料の賜物。お餅つきが西瓜アイスつきになってもかまいません。子ども達を一旦、受け入れれば元に戻ります。

“ふざけ”に見える行動の奥には、「やってみたい」「仲間になりたい」という気持ちがあるのです。

だから、ガミガミ叱らないでください。 「やりたいんだね」「面白そうだね」と、まず気持ちを受け止めてあげてください。

すると、子どもたちは安心して、自分の役割に向かっていきます。

私は、ふざけていた子が、最後に「ぼく、ねずみの気持ちわかったよ」と言ったとき、涙が出そうになりました。

子どもたちは、ちゃんと感じている。ちゃんと育っている。

語りも人形劇も、心が動く場です。 その場にいるだけで、子どもたちは“命の物語”を受け取っています。

どうぞ、安心して見守ってください。 そのまなざしが、子どもたちの“人とつながって生きる力”を育てていきます。

まとめ|昔話が教える“心を編む力

昔話も人形劇も、教育の原点は「つながること」にあります。 『ねずみのすもう』を通して学べるのは、勝つ喜びではなく、相手を思う優しさ、助け合いの尊さです。

保護者面談で昔話の影響を尋ねてみると、食事の支度をしている親のそばに来てねずみの相撲のセリフを言ったり、おじいさん役をさせられたりするそうです。

「家でお餅をついてねずみにたべさせよう」「お金がなくても大丈夫、おじいさんやおばあさんみたいに優しくしていればお金持ちになれるから」と子どもに言われてはっとすることがある。

「昔話は大人にも役立ちますね」「昔話って昔の話じゃなくて今の話ですね」「子育てのヒントがある」と保護者の方に言われました。

昔話を読む、話す、演じる──そのすべてが、子どもの中で「人と生きる力」を確実に育てます。 保育園でも家庭でも、小さな人形劇をぜひ取り入れてみてください。

昔話を劇にすることで親子で共通の話ができ、良い親子関係が育ちます。特に幼児期に昔話を語り合う場を持てば、思春期の感情が不安定な時期を乗り切ることができます。

昔話は子どもにとって一生物の財産.親にとっても安心できる子育てです。幼児教育の先生も保護者の方も、昔話を劇にしてみようと気軽に取り組んでくだされば必ず良い結果がついてきます。

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