『てぶくろ』の語り・人形劇・ごっこ遊びで育つ子どもの心 〜保育・家庭でできる実践アイデアと心の成長のヒント〜

昔話×劇あそび

はじめに|昔話は“今話”になる

「昔話って、今の子どもに通じるの?」 「今はSNS時代。動画ばかり見ている子どもに役に立つの?」最近、そんな声をよく耳にします。

私は、いつもこう答えます。 「昔話は、今話です。今を生きるための物語です」

物語に登場するのは、きつねやうさぎ、巨人など、現実にはいない存在ばかり。 でもそれは、子どもたちが感情移入しやすいように、あえて“動物”や“空想の存在”に姿を変えているのです。

昔話に描かれているのは、人間の本質や、社会の中で生きる知恵、心のあり方。 それは、時代を超えて変わらない“真実”です。

だからこそ、昔話は古臭いものではなく、 今の時代を映し出す“鏡”であり、未来を生きるための“鍵”でもあるのです。「語りってどう始めたらいいの?」 「人形劇って難しそう…」 「ごっこ遊びって、どんな力が育つの?」

そんな疑問をお持ちの保育士さんや保護者の方に、 すぐに使えるヒントと、子どもの心の成長の手がかりをお届けします。

そこで今回ご紹介するのが、ウクライナ民話『てぶくろ』です。 なぜ『てぶくろ』なのか? それは、「誰を受け入れるか」「どう一緒に生きるか」という問いが、今の社会にも深くつながっているからです。

子どもたちと一緒に、この物語を“今話”として体験してみませんか?

この記事では、ウクライナ民話『てぶくろ』を題材に、 【語り → 人形劇 → 人間劇】という三つのステップを通して、 子どもの心がどう育つのか、また家庭や保育現場でどう活用できるのかを、 現場の実体験をもとに、わかりやすくご紹介します。

語りの力|子どもが心を開く瞬間

語りを始めるとき、「うまく読まなきゃ」「子どもが聞いてくれるかな」と不安になる方も多いかもしれません。 でも、語りに必要なのは“完璧な声”ではなく、“心を込めて届けること”です。

絵本を閉じて、子どもたちの目を見て、ゆっくりあたたかい声で語りかけてみてください。 子どもたちは、語り手の愛情を感じ、言葉の奥にある“気持ち”をちゃんと受け取ってくれます。語りのテクニックを気に掛けることはありません。

語りは、特別な技術がなくても始められます。 大切なのは、子どもと心を通わせたいという気持ち。 その思いがあれば、どんな語りも、子どもたちの心に届きます。

子どもたちの声が物語を動かす

ある冬の日、保育園の5歳児クラスで『てぶくろ』を語りました。「ここはウクライナ。風がびゅうびゅう、雪がもかもか降っています。おじいさんが落とした手袋に、ネズミが入って……そこへ誰かがやってきました。誰だろう?」

「カエル!」子どもたちは跳ねながら答えます。「入れて」「いいよ!」と、物語の中で自然にやりとりが始まります。

ところが、キツネが登場すると空気が変わりました。「ダメ!ずるいから入れない!」「嘘つきはダメ!」

私は問いかけます。

「どうしてダメなの?」「もし、キツネが本当に寒かったら、どうする?」子どもたちは考えます。ある子が言いました。「牙を抜いたら、入れてもいいよ」

その一言に、周りの子どもたちが「じゃあ、やさしいキツネならいいね」と応え、物語の中に“共存の条件”が生まれました。

語りは、「もしも」「だったら」「どうする?」という思考を引き出す力を持っています。

「先生の声、あったかかった」──語りは見えない手袋

語り終えたあと、ある女の子が私にそっと言いました。「先生の声、あったかかった。手袋みたいだった」その言葉に、私は胸がじんとしました。

語りは、子どもたちの心にぬくもりを届ける“見えない手袋”なのだと、改めて感じた瞬間でした。

人形劇の力|物語を“見える化”する

語りの次のステップとして、人形劇に取り組みました。子どもたちは目を輝かせて見入ります。「ウサギはすばやく入ったね!」「クマは大きいから、みんなが押されちゃった!」

人形劇は、物語を“見える形”にすることで、子どもたちの理解を深めます。  登場人物の動きや関係性が視覚的に伝わるため、幼児から小学生まで幅広く楽しめます。

子どもが語り手になるとき

子ども自身が人形を手にはめて演じると、驚くような変化が見られます。普段は口数の少ない子が、人形を通して堂々とセリフを言い始めるのです。

これは、「自分で語る」体験。人形が“心の代弁者”となり、子どもの内面が自然に表現されていきます。

家庭や保育園でできる人形づくりの工夫

  • カラー軍手に目や鼻を描いて手にはめる
  • フェルトを動物の形に切って貼る
  • 靴下を使って即席パペットに(クマ役にはお父さんの冬の靴下がぴったり!)
  • 100均の指人形を活用するのもおすすめ

舞台は物干し竿に黒布をかけるだけでもOK。

子どもの身長に合わせて高さを調整すれば、立派な“劇場”になります。私が実際に行ったときは、カラー軍手に子どもたち自身が目や口を描きました。

「この子は怒ってる顔にしよう」「この子はニコニコがいいな」 そんな会話をしながら、子どもたちは自然と登場人物の気持ちを想像していました。 完成した人形を手にはめると、まるで自分がその動物になったように、 「入れて!」「いいよ!」と、物語の続きを語り始めたのです。

人間劇の力|心と体で物語を生きる

人形劇の次は、人間劇(ごっこ遊び)へ。子どもたちが自分の体と声を使って、物語の登場人物になりきります。

「ウサギになりたい人は?」「クマは?」「手袋役も必要だね」人気のウサギが4人いれば、4匹のウサギでOK。

即興で「入れて」「いいよ」「きついよ!」とセリフを交わしながら、子どもたちは物語の世界を“生き始める”のです。

ごっこ遊びが育てる感情と対話

ある男の子が言いました。「この手袋、ぼくのだったら誰にも貸さない」すると、隣の女の子が返します。「でも、寒いときは貸してあげる。ひとりじゃあったかくないもん」

先生がそっと問いかけます。「じゃあ、貸すときって、どんな気持ちになる?」少し考えて、男の子が答えました。「ちょっとイヤ。でも、ちょっといい気持ちもする」

物語の“手袋”は、いつしか子どもたち自身の心の象徴になっていたのです。

『てぶくろ』は、現代社会への問いかけ

『てぶくろ』は、ただの動物たちの可愛いお話ではありません。「誰を受け入れるか」「どう共に生きるか」「限られた空間でどう折り合うか」──

これは、まさに現代の社会課題そのものです。

たとえば、

  • 多様性と共存
  • 居場所のなさと孤立
  • 受け入れる側の不安と、受け入れられたい側の願い
  • 限られた資源(=手袋)をどう分け合うか

子どもたちは、物語の中でそれを“遊び”として体験しながら、自分なりの答えを探し始めています。

語り → 人形劇 → 人間劇:三つのステップで育つ力

ステップ 育つ力 実践のヒント
語り 感情の認識・想像力 ゆっくり語り、問いかけを添える
人形劇 関係性の理解 簡単な人形で再現・遊びに取り入れる
人間劇 行動の選択・対話力 子どもが演じる場をつくる・

この三つのステップは、子どもの心の育ちを段階的に支える流れです。

無理に順番通りでなくても大丈夫。どこから始めても、子どもたちは物語の中で自分の力を育てていきます。

まとめ|昔話は、今を生きるための“鍵”

今、社会は分断や孤立、排除の空気にさらされています。でも、子どもたちは『てぶくろ』の中で、「どうしたら一緒にいられるか」「どうしたらあたたかくなれるか」を、自分の言葉で、体で、考えています。

昔話は、今話。物語の中に、現代の問題を解く鍵が眠っています。だからこそ、語り続けたいのです。子どもたちと一緒に、今を生きるために。どうぞ、ひとつだけでいいから、やってみてください。

もし、この記事が少しでもヒントになったなら、 ぜひ、ご自分の言葉で『てぶくろ』を語ってみてください。 その一歩が、子どもたちの心にあたたかな“手袋”を届けるはずです。私は、現場から、全力で応援しています。

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