昔話『三びきのこぶた』は、子どもの心を育てる“生きた教材” 語りから劇あそびへ(台本付き)──家庭でもできる心の育て方

昔話と劇

はじめに:昔話を“今の子ども”に届けるために

『三びきのこぶた』── わらの家、木の家、レンガの家。ふーっと吹き飛ばすオオカミ。 この昔話は、長く親しまれてきた定番ですが、今の子どもたちにとってはどうでしょうか?

「もう知ってる」「こわいからイヤ」「オオカミがかわいそう」 そんな声が返ってくることも、実際の現場ではよくあることです。

昔話をそのまま語るだけでは、届かない。 それが、私が子どもたちと過ごす中で、何度も感じてきたことです。

でも、だからこそ思うのです。 この物語を“古びたお話”にしてしまうのは、もったいない。

『三びきのこぶた』には、子どもたちが日々くり返している 「選ぶ」「まよう」「やり直す」という心の動きが、ちゃんと描かれています。

わら・木・レンガの家は、それぞれの“生き方のスタイル”。 オオカミは、子どもたちが出会う“こわいこと”や“困ったこと”の象徴。 そして、こぶたたちは、失敗しながらも自分で考え、乗り越えていきます。

これは、ひとりの子どもが、心の中で何度も選び直しながら育っていく物語。 私はそう読んでいます。

絵本も素敵ですが、「語り」や「劇あそび」として届けると、 子どもたちの想像力はぐんと広がり、物語が“自分のこと”として動き出します。

本記事では、30年以上、子どもたちと向き合ってきた現場の実感と、 少し視点を変えた読み方を通して、『三びきのこぶた』を今の子どもたちに届ける方法を探ります。

家庭でも、園でも、すぐに試せる劇あそびの工夫と、 子どもの心に届く昔話の届け方── そのヒントを、ここから一緒に見つけていきましょう

三びきのこぶたは「心の成長」を描いた物語

「モヤモヤ」「ゆれ」「やり直し」──子どもの心の中で起きていること

『三びきのこぶた』を読み返すと、あることに気づきます。 この物語には、子どもたちが日々感じている“心のモヤモヤ”や“ゆれ”が、 とてもリアルに描かれているのです。

たとえば、いちばん最初のこぶたは、 「早く終わらせて遊びたい」という気持ちで、わらの家を選びます。 二番目のこぶたは、「ちょっとはがんばるけど、そこそこに」という気持ちで木の家を。 三番目のこぶたは、「時間がかかっても、安心できる家をつくりたい」とレンガを選びます。

この三びきのこぶたたちは、兄弟というより、 ひとりの子どもが心の中でくり返している“選び方の変化”を表しているように思えるのです。

「これでいいかな?」 「やっぱりダメだった…」 「もう一回、ちゃんと考えてみよう」

そんな心の声が、物語の中にちゃんとある。 だからこそ、子どもたちはこのお話に引き込まれるのだと思います。

「ひとりの人間の心の旅」として読む

私はこの物語を、ひとりの子どもが“自分の力で生きていく”ために、何度も選び直す物語として読んでいます。

最初は軽く選んでみる。 うまくいかなくて、あわてて逃げる。 それでも、次の場所でまた試してみる。 そして最後には、自分の力で立ち上がる。

このプロセスは、まさに子どもたちが日々くり返していることそのものです。 だからこそ、『三びきのこぶた』は、子どもの心の成長をそっと支える物語として、 今も語り継がれているのではないでしょうか

家づくりは「生き方の選択」の象徴

『三びきのこぶた』の中で、こぶたたちはそれぞれ違う家を建てます。 わらの家、木の家、レンガの家。 この違いを、ただ「強い家・弱い家」として見るのは、少しもったいない気がします。

私は、この家づくりこそが“どんなふうに生きたいか”という選択の物語だと思っています。

わら・木・レンガ、それぞれのスタイル

  • わらの家は、「今が楽しければいい」「早く終わらせて遊びたい」という気持ち。
  • 木の家は、「ちょっとはがんばるけど、そこそこに」という、どこか中途半端な安心感。
  • レンガの家は、「時間がかかっても、自分の力で安心できる場所をつくりたい」という意志の表れ。

どれが正解、という話ではありません。 子どもたちは、日々の中でこうした“選び方”をくり返しているのです。

子どもと「自分はどの家が近い?」と話してみる

私は、物語を語ったあと、子どもたちにこう問いかけます。

「自分だったら、どの家を建てたいと思う?」 「どうしてその家を選んだの?」

すると、子どもたちは目を輝かせて話し始めます。

「わらの家!すぐできるし、ふわふわして気持ちよさそう!」 「木の家がいい。ちょっとがんばればできるし、かっこいいもん」 「レンガの家がいい。だって、オオカミが来てもこわくないから!」

ある子は、「ほんとはレンガがいいけど、つくるの大変そうだから木にする」と言いました。 その“ゆれ”こそが、今のその子の心のかたちなのだと思います。

このように、家づくりの場面は、子ども自身の価値観や願いを言葉にするチャンスになります。 「どの家がいい?」という問いは、 「どんなふうに生きたい?」という問いと、どこかでつながっているのです。

オオカミは“試練”──恐怖と向き合う力を育てる

「怖かったね」で終わらせない関わり方

『三びきのこぶた』の中で、オオカミが登場する場面。 子どもたちは、ここで一気に物語の世界に引き込まれます。

目を見開く子、そっと身を寄せる子、耳をふさぐ子。 中には、声を出して笑う子もいれば、じっと固まってしまう子もいます。

この“こわい”という感情こそが、子どもにとっての大切な体験です。 でも、そこで「怖かったね」とだけ言って終わらせてしまうのは、少し惜しい。

私は、語り終えたあとに、こんなふうに問いかけます。

「どんなところが一番こわかった?」 「そのとき、こぶたはどうしたっけ?」

すると、子どもたちはぽつりぽつりと話し始めます。

「ドアをバンバンたたくとこ」 「ふーって吹くとこ。家がこわれちゃうのがこわい」 「こぶたがひとりのとき、助けてくれる人がいないのがこわい」

その声に耳を傾けながら、私はうなずきます。 そして、もう一度、こぶたの行動を一緒にたどります。

「こぶたは、どうしたんだっけ?」 「逃げたよね」「次の家に行った」「がんばった!」

そう。こぶたは、こわくても“考えて動いた”のです。

子どもたちは、日々たくさんの“オオカミ”に出会っています。 友だちとのケンカ、初めての挑戦、失敗の経験── それらはすべて、心の中に現れる“試練”のかたちです。

だからこそ、私はこう伝えます。

「こわいって思うのは、悪いことじゃないよ。 でも、こわいときに“どうするか”を考えると、心がちょっと強くなるんだよ。」

この言葉に、子どもたちは静かにうなずきます。 昔話の“怖さ”は、ただ脅かすためではなく、“考える力”を育てるためにある。 それを、子どもたちはちゃんと感じ取っているのです。

オオカミとのやりとりは“交渉”にもできる

『三びきのこぶた』のクライマックスといえば、オオカミとの対決。 ふーっと吹いて、家を壊して、えんとつから落ちて……という展開は、 スリルがあって、子どもたちも大好きな場面です。

でも、私はあるとき、ふと思いました。 このオオカミ、ほんとうに“やっつける”しかないのかな? こぶたたちは、オオカミと話し合うことはできなかったのかな?と。

「こわい」だけじゃない、もうひとつの展開

劇あそびの中で、三番目のこぶたを演じた子が、 オオカミ役の子に向かって、こんなセリフを言ったことがあります。

「オオカミさん、ここには入れないよ。 でも、だれかを困らせないで生きる方法、いっしょに考えてみようよ。」

私はその言葉に、はっとしました。 子どもは“勝ち負け”だけで物語を終わらせたくないのです。 むしろ、“どうしたら一緒に生きられるか”を、ちゃんと考えている。

「こわい相手」と、どう向き合うか

もちろん、オオカミは“試練”の象徴です。 だからこそ、ただ逃げる・戦うだけでなく、「どう関わるか」を考える余地を残しておきたい。

劇あそびの中で、こんな展開も生まれました。

  • オオカミが「おなかがすいてたんだ」と打ち明ける
  • こぶたが「じゃあ、いっしょに食べる?」と提案する
  • でも、「人をこわがらせるやり方は、もうやめてね」と伝える

こうしたやりとりは、子どもたちが“考える力”や“交渉する力”を発揮する場面になります。 そして、物語が“自分たちのもの”として、ぐっと身近になるのです。

劇あそびで「選び直す力」を育てる

『三びきのこぶた』を劇あそびにするとき、私はいつも思います。 この物語は、ただ“演じる”だけでなく、“選び直す”ことができる物語だと。

わらの家を選んだこぶたも、木の家を選んだこぶたも、 失敗して、逃げて、最後にはレンガの家にたどり着きます。 その過程で、こぶたたちは「これじゃだめだった」「次はどうしよう」と、 自分の選択を見つめ直し、行動を変えていくのです。

この“選び直す”という経験は、子どもたちにとってとても大切です。 失敗してもいい。やり直していい。考え直してもいい。 劇あそびは、そんなメッセージを、体を使って伝えられる場になります。

台本は“正調”より“今の子どもに合う構成”で

昔ながらの台本も素敵ですが、 私はあえて、今の子どもたちの感覚に合うように構成をアレンジしています。

たとえば、家を建てる前に、こんな場面を入れてみます。

「どんな町に住みたい?」 「どんな家があったら、安心できるかな?」

こぶたたちが話し合いながら、それぞれの家を選ぶ場面を描くことで、 “家づくり=生き方の選択”というテーマが、子どもたち自身の言葉で立ち上がってくるのです。

また、オオカミとのやりとりも、 「ただ怖がる」「ただやっつける」だけでなく、 対話や工夫、助け合いの要素を盛り込むことで、 子どもたちの“考える力”が自然に引き出されていきます。

結末は「煮る」ではなく「学び直す」「共に考える」へ

昔話の原型では、オオカミはえんとつから落ちて、鍋で煮られてしまいます。 でも私は、そこを少し変えています。

たとえば──

  • オオカミが「ごめんなさい」と言って逃げていく
  • こぶたが「今度は話を聞いてあげようかな」とつぶやく
  • まちのどうぶつたちが「また来たら、どうする?」と考え始める

“終わり”ではなく、“次につながる余白”を残すことで、 子どもたちの中に、物語が生き続けていくのです。

即興劇台本『三びきのこぶた』

(登場:こぶた三、オオカミ、ナレーター/観客参加型)

◉ 登場人物

  • ナレーター(語り手)
  • こぶた三(しっかり者。自分の言葉で考える)
  • オオカミ(さみしさや空腹を抱えた存在)
  • 観客の子どもたち(こぶた三やナレーターの問いかけに答える)

◉ 場面1:はじまりと家づくり

ナレーター: 「むかしむかし、あるところに、こぶたがひとりいました。 こぶたは、ひとりで生きていくために、自分の家を建てることにしました。」

(こぶた三、舞台に登場。レンガを積むしぐさ)

こぶた三(語りながら): 「わたしは、しっかりした家をつくりたい。 時間はかかるけど、安心できる場所がほしいから。」

(少し手を止めて、客席に向かって)

こぶた三(問いかけ): 「みんななら、どんな家をつくる? わら?木?レンガ?それとも、ちがうもの?」

(観客の声を受けて、うなずく)

こぶた三: 「うん、いろんな家があるね。 でも、わたしは、レンガでいくよ。」

◉ 場面2:オオカミのうわさ

ナレーター: 「こぶたが家をつくっていると、森の奥から、風の音が聞こえてきました。 どうやら、オオカミが近づいているようです。」

(風の音。オオカミの足音。こぶた三、耳をすます)

こぶた三(小声で): 「……ほんとうに来るのかな。 “ふーっ”て、ふきとばすって、ほんとかな……。」

◉ 場面3:オオカミ登場と対話のはじまり

(オオカミ登場。レンガの家の前に立つ)

オオカミ: 「こぶたくん、こぶたくん、入れておくれ〜。 寒くて、おなかもぺこぺこなんだよ〜。」

こぶた三(家の中から): 「あなた、また“ふーっ”てするの?」

オオカミ(少し間をおいて): 「……するかも。だって、そうしないと、だれも話を聞いてくれないんだ。」

(こぶた三、しばらく沈黙)

こぶた三(観客に向かって): 「ねえ、どうしたらいいと思う? オオカミさん、ほんとはどんな気持ちなんだろう?」

(観客の声を受ける:「さみしい」「こわがられたくない」「おなかすいてる」など)

こぶた三(うなずきながら): 「そうか……さみしいのかもしれないね。 でも、“ふーっ”てするのは、やっぱりこわいよ。」

◉ 場面4:新しい生き方を考える

オオカミ(しゅんとして): 「……じゃあ、どうしたらいいの? ふーってしないで、生きるって、どうすればいいの?」

こぶた三(観客に向かって): 「みんななら、どうする? オオカミさんが、こわがられないで生きるには、どんなことができると思う?」

(観客の子どもたちが自由に提案:「あいさつする」「歌をうたう」「お手伝いする」など)

こぶた三(観客の声を受けて、即興で): 「○○っていうの、どう?やってみる?」

オオカミ(考えながら): 「……うん。やってみようかな。できるかな……。」

◉ 場面5:しめくくり(開かれた結末)

ナレーター: 「こぶたとオオカミは、まだ答えを見つけたわけではありません。 でも、ふたりは、話しはじめました。 “こわがらせないで生きる”って、どんなことだろう? “安心できる場所”って、どうやってつくるんだろう? ──それを、いっしょに考えはじめたのです。」

(こぶた三とオオカミ、少し距離をとって並び、空を見上げる)

ナレーター: 「おしまい。でも、ふたりの物語は、これからもつづいていきます。」

演出と進行のヒント

  • セリフは“きっかけ”として提示し、子どもが自分の言葉でふくらませる
  • 観客とのやりとりは、演じる子どもにとっても“考える時間”になる
  • オオカミ役は、セリフを覚えるより“気持ち”を想像して演じることを大切に
  • ナレーターは、場面のつなぎと子どもたちの声の受け皿として柔軟に対応

結びにかえて──物語を“生きる力”に変えるために

『三びきのこぶた』という昔話を、 子どもたちと一緒に“演じる”というかたちで出会い直すとき、 私たちは、物語の奥にある問いと向き合うことになります。

「なぜ、こぶた一・二は食べられたのか」 「オオカミは、ほんとうに悪者なのか」 「こぶた三は、なぜレンガを選んだのか──それは正しかったのか」

こうした問いは、子どもたちが“感じ、考え、選び直す”ための扉です。 そして劇あそびは、その扉を開くための、もっとも自然で、もっとも力強い方法のひとつです。

私は、台本を“完成させない”ようにしています。 セリフの余白に、子どもたちの声が入り込むように。 展開の途中に、問いが立ち上がるように。 そして何より、「おしまい」ではなく「これからどうする?」で終わる物語を、子どもたちと一緒に生きていきたいのです。

まずは、こんなふうに始めてみませんか?

すぐにできる!劇あそび導入のヒント ✅ 昔話を読む前に「どんな家に住みたい?」と聞いてみる ✅ セリフは決めず、子どもの言葉で展開してみる ✅ 観客の子にも「どうする?」と問いかけてみる

小さな問いが、物語を“自分ごと”に変える第一歩になります。

 だからこそ、私はこの劇あそびをおすすめします

この『三びきのこぶた』の即興劇あそびは、 昔話の力を活かしながら、子どもたちが“自分の言葉”で世界と出会い直すことができる実践です。

  • 命の重みを感じる
  • 対話の可能性を探る
  • 選び直す力を育てる
  • そして、物語を“自分のもの”にしていく

こうした体験を、ひとつの劇あそびの中で自然に生み出せる構成になっています。

もし、あなたが 「子どもと一緒に物語を考えたい」 「昔話を、今の子どもに届け直したい」 そう願っておられるなら──

この劇あそびは、きっと力になります。

どうぞ、あなたの現場でも、 “演じること”を通して、子どもたちと物語を生きてみてください。 その時間は、きっと、子どもたちの心に残る“ほんとうの学び”になるはずです。

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