はじめに|昔話と人形劇は、子どもの心を育てる“道具”です
「子どもの心に、どうやって寄り添えばいいのか」保育や子育ての現場で、そんな悩みを抱える方は多いと思います。私もその一人でした。
けれど、昔話を語り、人形劇にしてみると、子どもたちの目が変わるのを何度も見てきました。
特に『ねずみのすもう』は、優しさ・悔しさ・喜び・仲間とのつながりを、子どもたちが自然に感じ取れる昔話です。
そして、語ったあとに手作り人形で劇にすると、子どもたちの表現が一気に広がります。

語り手からのひとこと
昔話って、子どもたちの心にまっすぐ届くんです。だからこそ、語る人の声がとても大切。うまく話せなくても、気持ちがあれば大丈夫ですよ。
昔話『ねずみのすもう』が子どもの心に届く理由
負けるねずみに共感する子どもたち
『ねずみのすもう』は、痩せたねずみが太ったねずみに何度も投げられながらも、おじいさんとおばあさんがついてくれた餅を食べたおかげで立ち上がる物語です。
子どもたちは、負けて悔しがるねずみに自分を重ね、おじいさんとおばあさんの優しさに安心し、最後には「よかったね」と心から喜びます。
勝ち負けだけでなく、思いやりや助け合いの大切さを伝えてくれる昔話です。

語り手からのひとこと
子どもって、負ける側に心を寄せることが多いんです。「かわいそう」「がんばってほしい」って、自然に応援する気持ちが生まれるんですね。
語りが子どもの心を開く
私は、絵本を使わずに『ねずみのすもう』を語ったことがあります。最初はザワザワしていた子どもたちが、物語が始まると静かになり、最後には前のめりになって聞いていました。
語りは、子どもと心を通わせる時間です。 声のぬくもりが、子どもの心に届きます。

語り手からのひとこと
絵本がなくても、声だけで子どもたちは物語の世界に入っていきます。目と目を合わせて語ると、心がつながるのを感じますよ。
人形劇にしてみよう|昔話を“体験”に変える方法
材料は、身近なものでOK!
人形劇を始めるのに、特別な人形や舞台は必要ありません。保育室や家庭にあるもので、すぐに始められます。
使える素材の例:
- 紙袋、封筒、牛乳パック、空き箱
- フェルト、色画用紙、折り紙、布の切れ端
- 割り箸、ストロー、洗濯ばさみ
- クレヨン、マジック、のり、はさみ、テープ
すべて100円ショップで揃います。

立派な人形じゃなくていいんです。身近な材料で作ることに意義も価値もあるのです。
子どもと一緒に作ると、それだけで物語が“自分のもの”になります。
人形の作り方(例:ねずみ)
- 台紙(紙袋や厚紙など)に、ねずみの顔を描く
- 耳・しっぽ・手などを切って貼る(厚紙、しっぽは毛糸を貼ると動きが出ておもしろい!
- 持ち手をつけて動かしやすくする(割り箸やストローなど。セロテープやガムテープで貼り付ける)
- 完成!動かしてみよう!
●子どもと一緒に作ると、作る時間そのものが学びになります。
人形劇の進め方|語りから劇へ自然につなぐ
語りのあとに「やってみたい?」と聞いてみる
語り終えたあと、「やってみたい人?」と聞くと、子どもたちは目を輝かせて手を挙げます。
その気持ちを大切にして、すぐに人形を出してみましょう。「じゃあ、誰が痩せたねずみやる?」「おじいさんは誰にしようか?」役を決めるだけで、子どもたちは自然と動き出します。

語り手からのひとこと
「やってみたい?」の一言で、子どもたちの目が変わります。
その瞬間を見逃さないでくださいね。
セリフは短く、繰り返しやすく
- 「はっけよい、のこった!」
- 「ぺったん、ぺったん!」
- 「おらも餅、食いたい」
- 「ありがとう」「いっしょに暮らそう」
⚫️子どもたちは、遊びの中でセリフを覚えていきます。ふだん使っている言葉をセリフにすると、違和感なく覚えていきます。
忘れても大丈夫。隣の子が教えてくれたり、自分の言葉で言い換えたりします。
『ねずみのすもう』やさしい人形劇台本(シーン別)
シーン1:山へ行く
語り手: むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。 ある日、おじいさんが山へ行くと…
痩せたねずみ: 「はっけよい、のこった!…うわっ、また負けた…」
太ったねずみ: 「へっへっへ、また勝ったぞ!」
語り手: 痩せたねずみは、何度やっても負けてしまいます。
シーン2:おじいさんとねずみ
おじいさん: 「おやおや、どうしたんだい?」
痩せたねずみ: 「おすもうで、いつも負けちゃうんです…」
おじいさん: 「よしよし、うちにおいで。おばあさんとお餅をついてあげよう。」
シーン3:お餅をつく
おばあさん: 「さあ、おじいさん、一緒にお餅をつきましょう。」
(みんなで「ぺったん、ぺったん!」と声を合わせて手を動かす)
語り手: おじいさんとおばあさんは、心をこめてお餅をつきました。
おじいさん: 「さあ、たくさん食べておいで!」
痩せたねずみ: 「わあ、ありがとう!いただきます!」
シーン4:再びすもう
語り手: 次の日、また山へ行くと…
痩せたねずみ: 「はっけよい、のこった!…えいっ!」
太ったねずみ: 「うわっ、まけたー!」
痩せたねずみ: 「やった!勝ったぞ!」
シーン5:仲直り
太ったねずみ: 「おらも、餅が食いたいなあ…」
おばあさん: 「いいよ、いっしょに食べましょう。」
痩せたねずみ: 「うん、みんなで食べたほうが、おいしいよ!」
語り手: それからというもの、太ったねずみはおじいさんの家に引っ越してきて、ねずみたちは仲良く暮らしましたとさ。 めでたし、めでたし。
ポイント 子どもの自由な発想を大事にする
上手に演じることを目的にするのではなく、楽しみながら子どもの思考力、想像力、創造力を育てることを大事にします。
- セリフは自由にアレンジOK!
- 子どもが自分の言葉で言い換えても大丈夫です
- 語り手がリードすることで、安心して参加できます
- 「ぺったん、ぺったん」「はっけよい、のこった!」など、リズムのある言葉を繰り返すと盛り上がります
シーンごとの短いセリフ
この台本は、昔話『ねずみのすもう』を人形劇として演じるための、シーンごとの短いセリフ集です。よろしければ参考になさってくださいね。
保育室や家庭で、子どもたちと一緒に演じることを想定して作っています。
- セリフは短くて覚えやすいので、年少児でも参加できます
- 語りのあとにそのまま劇に移れる構成になっています
- 人形がなくても、ごっこ遊びとして体を使って演じるだけでも効果的です
- 子どもが自分の言葉で言い換えてもOK。自由にアレンジして楽しめます
この台本を使えば、昔話を“聞くだけ”から“体験する”時間へと広げることができます。 子どもたちの表現力、共感力、協力する力が自然に育っていきます。
実際にやってみた子どもたちの反応
私の実践から|痩せたねずみが負けるシーン
痩せたねずみ役の子が、負ける場面で人形を見つめながらぽつりとつぶやきました。
「ぼく、負けるのいやだな…、負けたくない」すると、隣の子がすぐに声をかけました。「大丈夫!餅を食べたら元気が出るよ!やってみな」
そのやりとりを聞いていた他の子たちも、「がんばれ、がんばれ!」とがんばれコールが沸き起こりました。
役の上からは、痩せたねずみは太ったねずみに負けるなくてはなりませんが、いざ、劇をやってみると負けたくないのです。

語り手からのひとこと
子どもたちは、物語の中で“誰かを応援する”ことを自然に学びます。
それは、教え込むのではなく、物語を通して自分の中から湧き上がる感情なんです。
私の実践から|餅をつくシーン 全員でぺったんぺったん
おじいさんとおばあさんが餅をつく場面では、子どもたち全員が「ぺったん、ぺったん!」と声をそろえて手を動かし始めました。
中には「いちご大福がいい!」「みたらし団子もつくろう!」「大根おろしもきな粉餅もいいよね!」と、想像をふくらませる子も出てきて話がどんどん逸れていきました。

語り手からのひとこと
脱線しても大丈夫。
その世界を楽しむこと自体が、子どもたちにとっての“物語の体験”です。
一度しっかり遊ばせてあげると、自然と物語に戻ってきます。3分待てば、必ず戻ってきます。
私の実践から|痩せたねずみと太ったねずみ。仲直りのシーン
太ったねずみが「おらも餅、食いたい」と言うと、おばあさん役の子が「いいよ、いっしょに食べよう」と優しく答えました。
劇が終わったあと、子どもたちはこんなことを話していました。「太ったねずみ、仲間になれてよかったね」
「おじいさんとおばあさん、やさしいね」「ぼくも、餅ついてあげたいな」

語り手からのひとこと
物語の中で、子どもたちは“ゆるす”ことや“受け入れる”ことを体験します。
それは、日常の中ではなかなか言葉にできない感情を、そっと表現する機会にもなるのです。
よくある質問とアドバイス
Q1:語りが苦手でも大丈夫?
A: はい、大丈夫です。絵本を見ながらでも、短く区切って語っても問題ありません。スムースに読むとか俳優みたな声で読もうと思わないでください。子どもに届けたいという気持ちです。シンプルにこの気持ちさえあれば大丈夫です。
子どもは、大人の声のぬくもり、愛情をしっかり受け取るのです。

語り手からのひとこと
「うまく話せない」と思っても、子どもは“あなたの声”を待っています。
たとえ言葉につまっても、その一瞬が心に残ることもあるんです。
Q2:人形劇の準備が大変そう…
A: 特別な道具は必要ありません。紙袋や封筒、色画用紙など、身近なもので十分です。子どもと一緒に作れば、準備の時間も楽しい活動になります。

語り手からのひとこと
「準備が大変そう」と思ったら、まずは一つだけ作ってみてください。
一つの人形ができると、子どもたちが「もっと作りたい!」と動き出しますよ。上手に作ろうと思わないのがコツです。
Q3:セリフを覚えられない子がいます
A: セリフを覚えることが目的ではありません。「ぺったん、ぺったん」「はっけよい、のこった!」など、リズムのある言葉を繰り返すだけでも十分です。子どもたちは、遊びの中で自然に言葉を覚えていきます。

語り手からのひとこと
セリフが出てこなくても、大丈夫!顔の表情が動く、あ、とかう、だけでもいいのです。子どもは自分の言葉で物語を生きています。
その自由さを大切にしてあげてください。
まとめ|昔話と人形劇は、子どもの心を育てる力があります
『ねずみのすもう』は、昔話の中でも特に子どもの心に届きやすい物語です。語って、作って、演じることで、子どもたちは感情を表現し、仲間と関わり、思いやりを学びます。
人形劇は、子どもたちが自分の手で物語を動かす体験です。その中で、子どもたちは「伝えたい」「わかってほしい」という気持ちを言葉にし、表情にし、動きにしていきます。
「やってみようかな」と思ったら、まずは一つ、作ってみてください。子どもたちの反応に、きっと驚かれると思います。
おわりに|あなたの語りが、子どもの心を動かします
人形劇は、特別な人だけのものではありません。語りたいという気持ちがあれば、誰にでも始められる表現のかたちです。
『ねずみのすもう』のような昔話は、子どもたちの心にそっと寄り添い、
「やさしさってなんだろう」「仲間っていいな」という気づきを自然に育ててくれます。
あなたの声で、あなたの手で、どうぞ、子どもたちと一緒に物語の世界を旅してみてください。その一歩が、きっと誰かの心に残る“語り”になります。
私がこの活動を続けているのは、「語り」が子どもたちの心を動かす力を持っていると信じているからです。どんなに時代が変わっても、人の声で語られる物語には、心を育てる力があります。
どうか、あなたの声で、子どもたちに物語を届けてください。

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