はじめに:デンマークの食卓で出会った、心に残る味と物語
北欧の中心にあるデンマークは、海風と森の香りが溶け合う穏やかな国です。私が旅したとき最も印象的だったのは、どの料理にも“素材そのものの力”が生きていたこと。
派手な味付けよりも、地元で採れた新鮮な野菜や魚を活かす調理が基本で、食べるたびに「自然とともに生きる」という言葉の意味を感じました。
この言葉が大袈裟ではなく、するんと胸に落ちるのです。
ホームステイ先のご主人が朝早く採ってきた山菜がサラダ鉢にたっぷり盛られていました。
包丁をいれずに手で千切って無造作に盛られているのですが、緑の葉に露が光っていたのを覚えています。
「デンマークでは夫が朝、野菜や山菜を採ってくるのがふつうですよ」と言われ、頭がくらっと来ました。憧れますね、こんな暮らし。
レストランでは、豚肉や魚介類、旬の野菜を使ったシンプルで美しい料理が並び、 見た目は華やか、体にすっと入ってくるやさしい味わいに、何度も感動しました。
“飾らないのに、深く心の内に残る”ということは、デンマークの食文化が自然の恵みに感謝する日々の暮らしに根ざしているからなのかもしれません。
実際、「ありがとう!」「きれいね!」と野菜たちに声をかけ口に運んでいる姿は映画を見るような感じでした。
また、現代だけに注目するのではなく、デンマークの歴史を振り返ることが必要だと感じました。
そして、ホームステイ先で出会った家庭料理は、 レストランとはまた違った、素朴であたたかい味わいでした。
同じ料理でも、家庭ごとの工夫や手作りのぬくもりが感じられて、「食べることは、生きることそのものなんだ」と、しみじみ思ったのを覚えています。
この記事では、私が実際にデンマークで体験したレストランでの食事を中心に、 現地の食文化やおすすめの料理、そして家庭料理との違いについてもご紹介します。
旅のヒントや、日本で再現するためのアイデアも交えながら、 “食べることで旅する”ような時間をお届けできたら嬉しいです。
デンマークで味わうべき伝統料理とその魅力
スモーブロー(Smørrebrød)

ライ麦パンの上にスモークサーモンやエビ、ディルなどを彩りよくのせた“オープンサンド”──それがデンマークの国民的料理「スモーブロー」です。
私はコペンハーゲンのカフェで初めて食べましたが、見た目の美しさに思わずカメラを向けてしまいました。
食べれば、香ばしいライ麦パンと魚介のうま味が口の中いっぱいに広がり、北欧の海を思わせる爽やかさ。
正直に言うと、はじめはパンの上にエビや魚が乗っているのでちょっと引いてしまいましたが、デンマークの味を知らないで日本に帰れないと思って一口食べたら、虜になってしまいました。
口の中にデンマークが広がったのです。
お店によって具材の組み合わせがまったく異なり、家庭では冷蔵庫の残り物で作ることもあるそうです。その自由さが、この料理のいちばんの魅力だと思います。
印象的だったのは、お店や家庭によって具材の組み合わせがまったく違うこと。 ある日はニシンの酢漬けと赤玉ねぎ、別の日はローストビーフにレムラードソース。
ホームステイ先では、冷蔵庫にあるものを自由にのせて、「今日はこれがあるから、こんな感じでどう?」と笑顔で出してくれました。この自由さと美味しさのバランスが、スモーブローの魅力なんだと思います。
そして何よりうれしかったのは、「これなら、日本に帰ってもできるな」と思えたこと。 ライ麦パンは輸入食材店やベーカリーで手に入るし、 具材も身近なもので十分。
ちょっとした工夫で、旅の記憶を食卓に再現できる── そんな親しみと安心感がありました。
見た目は華やか、味は素朴。 そして、自由に楽しめる北欧のオープンサンド。 スモーブローは、旅の思い出をそっと日常に連れてきてくれる料理です。
そう、この自由さがデンマークなんだと感じました。
フリカデラー(Frikadeller)

デンマークを旅したとき、現地のレストランとホームステイ先の両方で出会ったのが、この「フリカデラー(Frikadeller)」という料理でした。
見た目は小さなハンバーグ。サイズは二口か三口で食べ切るほど。しかし口にすると、外はカリッと香ばしく中はふんわり柔らかい──それがデンマークの「フリカデラー」です。
私は現地の家庭でこの料理をごちそうになりました。デンマーク家庭料理の定番。少し不揃いな形やざっくり刻まれた玉ねぎにおおらかなデンマーク人気質、“家庭の温もり”を感じ、思わず笑顔に。
オーブンは使わないでフライパンで焼いていました。「オーブンは使わないのですか?」と尋ねると、「電気代が高いからね。それに手で焼くのが好きなのよ。焦げ目が見えるからね」とお返事。
デンマークでは付け合わせに赤キャベツのマリネや茹でジャガイモを添えるのが定番で、どこか懐かしい味わいでした。
私はこの自由でラフな感じがとても好き。肩凝りが取れたように感じました。
ステイゲット・フレスク(Stegt flæsk)

「ステイゲット・フレスク」は、厚切りの豚バラをカリッと焼き、パセリソースとジャガイモを添えた“デンマークの国民食”です。日本のベーコンとは違い、脂っこさがなく後味も軽やか。
私も最初は少し身構えましたが、口に入れると意外なほど上品な味わいで、「これが愛される理由か」と納得しました。家庭でも人気で、伝統料理ながら今も多くの人々の食卓に並びます。
「日本の沖縄も豚肉をたくさんいただきますよ」と言うと、「沖縄の味とどっちが美味しい?」と身を乗り出して聞かれました。
デンマークの豚肉はカリッとしている、沖縄の豚肉はしっかりお腹にたまると拙い英語で答えると、「オウ!」と手を挙げ、早口で何か言われましたが、笑顔なので安心しました。
デンマーク人が豚肉を食べる歴史的背景
デンマークは冷涼な気候と平坦な地形に恵まれ、 広大な農地と牧草地が広がっています。 この環境は豚の飼育に非常に適しており、飼料となる穀物も豊富に生産されてきました。
牛に比べて飼育コストが低く、寒冷地でも育てやすい豚は、 中世から庶民の食卓を支える重要なたんぱく源となっていたのです。
19世紀以降の“国策”としての豚肉輸出
19世紀後半、デンマークは農業国としての生き残りをかけて、 豚肉と乳製品の輸出に力を入れる国家戦略をとりました。
文化として根づいた“豚肉=家庭の味”こうした歴史と経済の流れの中で、 豚肉は家庭料理の中心的存在になりました。
ラグブロート(Rugbrød)

どの食卓にも登場する黒いパン「ラグブロート」。ライ麦を主原料とし、デンマークでは“お米のように”毎日食べられています。
初めてかじったときは少し硬く感じましたが、噛むほどに深い酸味と香ばしさが広がり、次第にクセになる味。
デンマークの人々はこれをスモーブローのベースに使い、栄養価の高さから健康食としても根強い人気があります。私は帰国後も輸入店で購入し、旅の記憶を朝食で再現しています。
日本にいながらデンマークの味を楽しめるのでおすすめです。
*日本でも買える!ラグブロートの入手先
1. アンデルセン(ANDERSEN)ベーカリー
デンマークにルーツを持つ老舗ベーカリー。 全国の店舗やオンラインショップで、本格的なライ麦パンやラグブロート風のパンを取り扱っています。 https://www.andersen.co.jp/
2. カルディコーヒーファーム(KALDI)
輸入食材を多く扱うカルディでは、ドイツや北欧系のライ麦パンが冷蔵コーナーに並ぶことも。 ラグブロートに近い味わいのものが見つかるかもしれません。 https://www.kaldi.co.jp/
3. 成城石井・紀ノ国屋などの高級スーパー冷凍・冷蔵コーナーに、ライ麦100%のパンやシード入りの黒パンが並ぶことがあります。 見つけたらぜひ試してみてください。
4. 楽天市場・Amazonなどの通販サイト
「ラグブロート」で検索すると、デンマークやドイツからの輸入品がヒットします。 賞味期限が長めの冷凍タイプも多く、ストックにも便利です。
アクアビット(Akvavit)

デンマークでの食事中、現地の友人が「これは絶対に飲んでみて」とすすめてくれたのが、 アクアビット(Akvavit)という透明な蒸留酒でした。
実は私、お酒がまったく飲めません。 でも、デンマークで出会った「アクアビット」は、香りだけでも印象的でした。
キャラウェイやディルの爽やかな香りがふわっと広がって、「これは料理と一緒に楽しむためのお酒なんだな」と感じました。
飲めない私でも、北欧の食文化の一部として体験できたことがうれしくて、 旅の記憶にしっかり残っています。
ロッドグロッド・メッド・フレデ(Rødgrød med fløde)デンマークで出会った、忘れられないデザート

赤い果実の輝きが美しい「ロッドグロッド・メッド・フレデ」は、ベリーを煮詰めたソースに冷たいクリームをかけたデンマーク伝統のデザート。
甘さ控えめで酸味が心地よく、暑い夏の日にぴったりです。私はホームステイ先で食べ、おかわりをしたほど気に入りました。日本では冷凍ベリーで簡単に再現できるので、旅の余韻を味わいたい人におすすめです。
日本で作れる!ロッドグロッド・メッド・フレデの簡単レシピ
材料(2〜3人分)
- 冷凍ミックスベリー(ラズベリー、ブルーベリー、イチゴなど)…200g
- 砂糖 … 大さじ2〜3(お好みで調整)
- 水 … 100ml
- レモン汁 … 小さじ1(なくてもOK)
- 片栗粉 … 大さじ1(コーンスターチでも可)
- 水(片栗粉を溶く用)… 大さじ1
- 生クリーム(または牛乳でもOK)… 適量
作り方
- 鍋にベリー・水・砂糖を入れて中火にかける → ベリーが柔らかくなり、全体が煮立ってきたらOK。
- レモン汁を加える(風味が引き締まります)
- 片栗粉を水で溶いて加え、とろみをつける → よく混ぜながら加えるとダマになりません。
- とろみがついたら火を止め、粗熱をとって冷蔵庫で冷やす
- 器に盛り、生クリームをたっぷりかけて完成!ポイント&アレンジ
- 甘さ控えめにして、素材の酸味を活かすのが北欧流
- 生クリームの代わりにバニラアイスやヨーグルトを添えても美味しい
- おもてなしにはミントの葉やナッツをトッピングしても華やかに!
デンマークの食卓で感じた、あたたかな時間の流れ
デンマーク人は食事を単なる栄養補給と考えるのではなく、「人とのコミュニケーションの時間」として非常に重視しています。
特に夕食は家族や友人と語らいながらゆったりと過ごす時間であり、家庭ではキャンドルの灯りをともして食卓を囲みます。
クリスマスでもないのにテーブルにキャンドルの炎がゆらゆら揺れているのにえらく感動しました。
部屋の四隅にはソファが置いてあり、コーヒーや紅茶を片手におしゃべりを楽しんでいます。ホームステイ先でも客人としてのもてなしよりも古い親しい友達として接してくださるのは本当に嬉しい体験でした。
こうした食事のスタイルは、レストランでも反映されていて、落ち着いた雰囲気でリラックスして食事が楽しめます。
一般的にデンマークのレストランではサービス料が料金に含まれているため、基本的にチップは不要です。しかし、ファストフード店やカジュアルな飲食店では場合によっては少額のチップが渡されることもあります。
また、水が有料の店が多いので、飲み物の注文時には確認しておくのが賢明です。
コペンハーゲンの厳選おすすめレストラン
首都コペンハーゲンはデンマーク料理を味わう旅の拠点です。伝統的なデンマーク料理から創造性豊かなモダンノルディック料理まで、多彩な名店が揃います。
伝統的なスモーブローに現代的なアレンジを加えた名店。鮮やかな彩りと食材の組み合わせが評判です。
SELMA(セルマ)
北欧らしさを感じる、モダンで親しみやすいスモーブロー専門店
コペンハーゲン滞在中、地元の方にすすめられて訪れたのがこの「SELMA」。 店内は北欧らしい木の温もりに包まれていて、ひとりでも気軽に入れる雰囲気でした。
北欧デザインの温かみを感じる店内で、モダンにアレンジされたスモーブローを。ディルやビーツを使った繊細なバランスが絶品。
- 公式サイト:https://selmacopenhagen.dk/
- 予約方法:公式サイトの「Book Table」からオンライン予約可能(英語対応)
- 住所:Rømersgade 20, 1362 København
- 営業時間:火〜土 11:30〜22:00(日・月定休)
- 備考:ランチタイムは混雑するため、事前予約が安心です。
Restaurant PUK
1850年創業の老舗で、“昔ながらのデンマーク料理”を体感。温かみのある照明でゆったり食事を楽しめます。
- 公式サイト:https://restaurantpuk.dk/
- 予約方法:公式サイトの「Book a Table」から簡単に予約可能(英語あり)
- 住所:Vandkunsten 8, 1467 København
- 営業時間:月〜日 11:30〜22:00
- 備考:歴史ある人気店のため、特にディナーは早めの予約がおすすめ。
「Restaurant Radio」
地産地消のモダンノルディック。発酵技法を使った料理にデンマークらしい思想を感じました。
- 公式サイト:https://restaurantradio.dk/
- 予約方法:公式サイトの「Book a Table」からオンライン予約(英語対応)
- 住所:Julius Thomsens Gade 12, 1632 København
- 営業時間:火〜土 17:30〜23:30(日・月定休)
- 備考:季節ごとのコース料理が人気。予約時にアレルギーや希望を伝えると丁寧に対応してくれます。
Marv & Ben
若手シェフの感性が光る創作料理。伝統の枠を越えた味の組み合わせが面白く、旅の印象を新しくしてくれました。
- 公式サイト:https://marvogben.dk/
- 予約方法:公式サイトの「Book Table」から予約可能(英語対応)
- 住所:Snaregade 4, 1205 København
- 営業時間:火〜土 17:30〜23:00(日・月定休)
- 備考:創作料理が多いため、苦手な食材があれば事前に伝えるのがおすすめ。
デンマークの飲食物価と外食費用事
デンマークは生活物価が高いことで知られており、飲食店の料金も日本に比べて高めです。ランチは2000円〜3000円ほど、ディナーは5000円以上が一般的な価格帯です。
多くのレストランでは料金にサービス料が含まれていますので追加チップは原則不要ですが、特別な対応を受けた際などに少額を渡すこともあります。
旅行者は支払いの際に明細をよく確認し、水代等も予算に計上しておくとよいでしょう。
デンマークで出会った、“食べる”を超えた食事の時間
デンマークを旅していて、何よりも心に残ったのは、 “食事の時間”そのものがとても大切にされていることでした。
こちらでは、食べることは単なる栄養補給ではなく、 家族や友人と心を通わせるための、かけがえのないひととき。 食卓を囲んで語り合う時間が、日常の中にしっかりと根づいているのです。
日本では「食べないと体がもたないから」と、 どこか義務のように食事をとることも少なくありません。 だからこそ、デンマークの“ゆったりと味わい、語らう”食卓の風景には、何度も驚かされました。
「こんなにゆっくりしていていいのかな?」と戸惑いながらも、 その空気に身をゆだねているうちに、「これがデンマーク流なんだ」と、体で納得していく自分がいました。
特に印象的だったのは、夕食の時間。 伝統的なスモーブロー(オープンサンド)を囲み、 キャンドルのやわらかな灯りのもと、笑い声と会話が自然に生まれる── 静けさではなく、温もりに満ちた食卓がそこにありました。
そして気づいたのです。 デンマークでは“会話そのものがご馳走”なのだと。 だから、料理が豪華である必要はない。 大切なのは、誰と、どんなふうに食卓を囲むかということ。
デンマーク語が話せなくても大丈夫。 英語が通じますし、もし英語が苦手でも、笑顔があれば十分伝わります。
言葉よりも、“一緒に楽しもう”という気持ちが何よりのコミュニケーションになるのです。
コミュ力は語学力じゃない。心を開いて旅をすれば、きっと通じ合える。 そんなことを、私はこの国の食卓で教えてもらいました。
こうした“人と人とのつながりを大切にする食文化”は、きっとデンマークの高い幸福度や社会の結びつきにも通じているのだと思います。
そして、そんな文化の中から、アンデルセンのような物語が生まれたのだと、 私は旅の中で、静かに腑に落ちたのでした。
オーデンセで出会った、物語のようなレストラン体験
オーデンセの街を歩いていたとき、 偶然見つけた木組みの外観が美しい小さなレストラン。 何気なく入ったその店が、実はアンデルセンが通っていた場所だったと知ったとき、 涙が込み上げてきました。
店内は、時が止まったように静かで、 壁には古い絵本のような挿絵が飾られ、木のテーブルにはやわらかな光が差し込んでいました。
私は思わず店内を見回して、「もしかしたら、あの席にアンデルセンが座っていたのかもしれない」── そんな想像をせずにはいられませんでした。
いただいたのは、フリカデラーと赤キャベツのマリネ、ラグブロートを添えた伝統の一皿。 どれも素朴で、飾り気はないけれど、まるで物語の中の家庭で出てくるような、あたたかい味でした。
食後には、地元のリンゴを使った温かいデザートと紅茶をいただきながら、 窓の外に広がる石畳の街並みをぼんやりと眺めていました。
アンデルセンが実際に通った店で、同じ空気を吸い、同じように食事を楽しむ── それは、旅の中でも忘れられない、静かな感動のひとときでした。
Restaurant Grønttorvet(レストラン・グロンツォーヴェ)アンデルセンが通った店
オーデンセ旧市街の中心部、グロンツォーヴェ広場(Grønttorvet)に面したこのレストランは、19世紀から続く歴史ある建物にあり、かつてアンデルセンが実際に通っていたと伝えられています。
木組みの外観と石畳の路地に囲まれたその佇まいは、 まるでアンデルセンの物語の一場面のよう。 地元の人々に長く愛されてきたこの場所は、観光地というよりも、 日常の中に物語が息づくような空間です。
店内には、アンデルセンにまつわる写真や資料がさりげなく飾られており、 彼がこの街で過ごした日々の気配をそっと感じることができます。






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