子育てに活きる『こぶとりじいさん』――子どもの心を育てる昔話の知恵

心を育てる昔ばなし

昔話は“今ばなし”――子どもの心に咲く見えない花

昔話というと「昔の面白い話」と思われがちですが、その本質はもっと奥深いものです。実際、私は家庭で娘に語り聞かせたり、保育園でボランティアとして読み聞かせをしたりする中で、物語が子どもの心にとても大きな影響を与えることを経験してきました。

『こぶとりじいさん』はその代表的な昔話の一つで、素直さや欲のなさ、人とのつながりを大切にすることの意味を、子どもたちに自然に伝えてくれるのです。

著書『おはなし上手は子育て上手にも記したように、昔話は“生きる土台”をつくり、“真実”を語るもの。子どもたちの心に、見えない花を咲かせる――それが昔話の力です。

子どもの反応から見える“心の芽”

実際に読み聞かせをしてみると、子どもたちは驚くほど豊かな感情を見せてくれます。私が幼稚園でお話をしたとき、善良なおじいさんが鴉天狗と一緒に踊る場面で、ある女の子が涙を流しました。

理由を尋ねると、「なんだか心がポカポカして嬉しかった」と答えたのです。また別の日には「こぶがなくなったらちょっとさびしい」と話す子がいて、私自身も驚かされました。

子どもにとっては“こぶ”はただの重荷ではなく、おじいさんの大切な一部として感じられていたのかもしれません。

こうした反応を通じて、昔話が子どもの価値観や想像力を揺さぶる力を持っていることを改めて実感しました。

欲深いおじいさんに対しては、「なんでそんなことするの?」「鴉天狗がかわいそう!」と怒りをあらわにする子もいます。

昔話は、子どもの心に“問い”を残します。それは、善悪を感じ、感情を言葉にし、自分の価値観と向き合う時間なのです。

鴉天狗という象徴――異質との出会いと受容

『こぶとりじいさん』に登場する鴉天狗は、ただの不思議な妖怪ではなく、“異質さへの出会い”を意味する存在です。

私が小学校で読み聞かせをした際、「鴉天狗のことをどう思った?」と尋ねると、「ちょっと怖いけど友だちになりたい」「違うからおもしろい」といった声が返ってきました。

このように、子どもは異質な存在に対して恐れだけでなく興味や受容の心を抱きます。現代社会においては、多文化や多様性を受け入れる力がますます大切になっており、『こぶとりじいさん』はその入口となる学びを自然に与えてくれるのです。

昔話は、異文化理解や多様性教育にもつながります。子どもたちは、鴉天狗との関係性を通して「違いを受け入れる力」を育んでいきます。

語りは対話―

昔話を読み聞かせるときに大切なのは、ただ「語る」ことではなく「対話を生む」ことです。私はいつもお話が終わったあとに「鴉天狗はどんな気持ちだったと思う?」「もし自分がおじいさんだったら踊る?踊らない?」といった質問を投げかけるようにしています。

この問いかけに正解はありません。大人が共感的に受け止めてあげることで、子どもは安心して自分の感情を言葉にできるようになります。これが自己理解や共感力を静かに育てていくのです。

家庭でできる昔話時間 三つのヒント

声だけで語ることで、子どもは想像力を働かせ、物語の世界に入り込んでいきます。

語りのあとに1分だけ、感想を聞いてみましょう。「どうだった?」「どこが好きだった?」――その短い対話が、子どもの心を耕す時間になります。

さらに、子どもが物語を語り返す「リピート語り」もおすすめです。自分の言葉で語ることで、物語が“自分のもの”になります。

「声だけで語る時間をつくる」

家庭で昔話を取り入れるのに、特別な道具や長い時間は必要ありません。私はよく、寝る前に部屋の明かりを少し落として「むかしむかし…」と語りはじめます。絵本がなくても、声だけで十分に子どもは物語の世界に入り込みます。

さらに感想を1分だけ聞く習慣を加えると、物語を共有したという安心感と、親子の会話の深まりを感じます。

ある夜、娘が「今日は私が話す番!」と言って自分なりに『こぶとりじいさん』を語ってくれたことがありました。その姿に、昔話が「自分のもの」として根づいたのだと大きな喜びを覚えました。

ヒント「子どもと一緒に“演じる”」

昔話の一場面を、親子で簡単に演じてみましょう。 たとえば『こぶとりじいさん』なら、踊る場面を一緒に体で表現してみる。

「どんな踊りだったと思う?」と聞いて、子どもが自由に動くのを見守ることで、自己表現と共感力が育ちます。

演じることで、物語が“自分の体験”になり、心に深く残ります。

ヒント「語りのあとに“問い”を残す」

語り終えたあと、「どんな気持ちになった?」「このお話、好きだった?」と聞いてみましょう。 正解を求めるのではなく、子どもの感じたことをそのまま受け止めることが大切です。 この対話が、感情の言語化と自己理解につながります。

「こぶって、ほんとうにいらないものだったのかな?」という問いは、価値観を揺さぶるきっかけになります。

どれも、特別な準備はいりません。 語り手の声と、子どもへのまなざしがあれば、昔話は心を育てる“SELの時間”になります。

保育園・幼稚園での昔話実践ポイント

保育現場で昔話を語る際、ただ読むだけではなく、子どもの心に届く“語りと対話”が大切です。以下に、実践に役立つポイントをまとめました。

保育や教育の現場で昔話を語るときには、読み聞かせにいくつか工夫を加えるだけで子どもの反応が大きく変わります。私は次のような方法を取り入れています。

声や間、表情を意識すること:鴉天狗の登場シーンは少し低い声で語ると、子どもは一気に物語に引き込まれます。

身体で表現すること:善良なおじいさんが踊る場面で、一緒に体をゆらしたり手を叩いたりすると、子どもたちはまるで自分が物語の登場人物になったように感じます。

問いかけの時間を挟むこと:「こぶって本当にいらないものだったのかな?」と問いかけると、子どもは自分の価値観と向き合うきっかけを得ます。

子ども自身に語らせること:「昨日のお話覚えてる?」と聞くだけで、子どもは自分の言葉で再現し、記憶力や表現力が育ちます。

工作活動につなげること:粘土で「こぶ」を作ったり、絵に描き込んだりすることで、物語をより実感的に味わえます。

子どもの反応から見える“心の芽”

語りの現場では、子どもたちが驚くほど豊かな感情を見せてくれます。

ある保育園で語ったとき、鴉天狗と踊る場面で涙を流す子がいました。「なんで泣いたの?」と聞くと、「なんか、うれしかった」とぽつり。 また、こぶがなくなって「さみしい」と言った子もいました。こぶが“重荷”ではなく“自分の一部”として感じられていたのです。

欲深い老人に対しては、「なんでそんなことするの?」「鴉天狗がかわいそう!」と怒りをあらわにする子もいます。 昔話は、子どもの心に“問い”を残します。それは、善悪を感じ、感情を言葉にし、自分の価値観と向き合う時間なのです。

まとめ:語りの根に、子どもの心が育つ

『こぶとりじいさん』をはじめとする昔話の語りは、単なる娯楽ではなく、子どもの心を育てる大切な営みです。子どもはおじいさんや鴉天狗の姿を通じて、優しさや素直さの大切さを学び、同時に違いを受け入れる感性を養っていきます。

私はこれまで語りの現場で何度も、子どもの心が振るえる瞬間に出会いました。そのたびに「昔話には今を生きる子どもへの大切な贈り物が詰まっている」と実感しています。家庭や保育の中で、ほんの数分でも昔話の時間を取り入れることが、子どもの“生きる力”を育てる大きな一歩になるのです。

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