- 子どもたちは、舞台の上で驚くほどの力を発揮します。 普段は控えめな子が堂々と台詞を話し、想像力が苦手とされる子が、誰よりも豊かな表現で物語を動かしていく——。
私が初めて『親ゆび姫』のミュージカルを指導したとき、普段は人前で話すのが苦手なAちゃんが、本番当日には大きな声で「私はここにいるよ!」と叫び、客席から大きな拍手が起こりました。この瞬間、子どもたちの中に眠る可能性が舞台を通じて目覚めることを実感しました。
私はこれまで、子ども向けの参加型ミュージカル『親ゆび姫』を通して、教育現場では見えにくかった子どもたちの“変化の瞬間に何度も立ち会ってきました。
本記事では、実際に公演を行ってきた立場から、子どもミュージカルが持つ教育的価値、指導のコツ、そして“初めてでも安心して取り組める仕組み”について、体験を交えてご紹介します。 演劇教育に関心がある方、これから導入を考えている方の一助となれば幸いです。
1. なぜ今、子どもミュージカルなのか?
稽古を重ねる中で、子どもたちの「できた!」という表情に何度も出会いました。セリフを覚えるのが苦手だったBくんが、仲間と一緒に練習するうちに自信を持ち、最終的には自ら進んでリーダー役に挑戦した姿が今でも忘れられません。
ミュージカルは、子どもたちの自己肯定感や協調性を自然に引き出す力があります。
ミュージカルは、こうした力を“楽しみながら”自然に育むことができる、非常に優れた教育的手法です。台詞を覚える力、仲間との呼吸を合わせる力、自分の感情を声と動きで表現する経験は、子どもたちにとってかけがえのない財産になります。
私たちが取り組む『親ゆび姫』のような参加型ミュージカルは、演劇に初めて触れる子どもでも安心して挑戦でき、舞台を通して心を育てる体験へとつながります。
2. アンデルセン『親ゆび姫』という題材の魅力
『親ゆび姫』の稽古で印象的だったのは、登場キャラクターに自分を重ねて演じる子どもたちの姿です。たとえば、「カエルの親子」役を演じたCちゃんは、普段は控えめなのに、「ゲコゲコ!」と全身で表現するうちに、自然と笑顔が増えていきました。物語を通して、子どもたちは自分だけの役割や居場所を見つけていきます。
一見シンプルなお話のようですが、舞台化して向き合う中で、私たちはその奥にある深いテーマや感情の動きに気づかされました。
ミュージカルとして『親ゆび姫』を描くことで、登場人物の想いに“声”を与え、心の動きを“歌や踊り”に変えていきます。
- 親ゆび姫の「自分で選ぶ勇気」
- 求められるままに流されてきた彼女の「葛藤と変化」
- 自分らしく生きることの「喜び」
——これらが、子どもたち自身の経験や感情と重なりながら、物語が“生きた体験”になるのです。
また、『親ゆび姫』には自然、動物、小さな命など、子どもたちの想像力をくすぐるモチーフがたくさん登場します。歌で語り、身体で表現することで、アンデルセンの描いた世界が一層身近で、心に残るものになりました。
つまり、童話をミュージカル化したことで、ただ読むだけでは見過ごしてしまう細やかなテーマや心情の変化まで、子どもたち自身の表現を通して発見することができたのです。
『親ゆび姫』の稽古で印象的だったのは、登場キャラクターに自分を重ねて演じる子どもたちの姿です。たとえば、「カエルの親子」役を演じたCちゃんは、普段は控えめなのに、「ゲコゲコ!」と全身で表現するうちに、自然と笑顔が増えていきました。物語を通して、子どもたちは自分だけの役割や居場所を見つけていきます。
ミュージカル『親ゆび姫』では、子どもたちが自分らしさを思いきり表現できるよう、登場人物たちはとてもユニーク。まるで“現実の誰か”を投影したようなキャラクターは、身近にモデルがあるので演じやすいです。
『親ゆび姫』の稽古で印象的だったのは、登場キャラクターに自分を重ねて演じる子どもたちの姿です。たとえば、「カエルの親子」役を演じたCちゃんは、普段は控えめなのに、「ゲロゲロゲゲゲ!」と全身で表現するうちに、自然と笑顔が増えていきました。物語を通して、子どもたちは自分だけの役割や居場所を見つけていきます。
3. キャラクターごとの演出体験
カエルの親子:言葉が少なくて下品なやつ
下品で言葉少なな「カエルの親子」は、体全体で表現する面白さを教えてくれます。
カエルのお母っかさんと息子 息子は「ゲロゲロゲゲゲ」しか言えない
稽古中、カエル役の子どもたちは「もっと大きくジャンプしてみよう!」と声をかけると、どんどん動きがダイナミックになり、最後には舞台袖でも「ゲロゲロゲゲゲ」と練習していました。
出演する人数が多い場合には、息子カエル役を何匹でも増やします。10匹の息子がエルがお母さんがえるの後を舞台の端から端まで、両手を床についてぴょんぴょん跳ねて移動する場面は、子役も観客も大笑い。文句なく笑えるシーンなので思い切りやってくださいね。
並び方は大きい子から小さい子に並べると、最高におもしろい!子どもたちが大好きなシーン。お母さんカエルは年長のおとなびた雰囲気の女の子が似合う。稽古場でも本番でもその子がきちんと仕切ってくれるので大助かり!
舞台を成功させるだけでなく、子供の情操教育、人格教育にもなるのです。子供ミュージカルの力は偉大です!
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カブトムシのおばさん:自分中心、他者にケチをつける
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- カブトムシのおばさん とても意地が悪い。おもいきり意地悪く演じよう!
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自己主張が苦手だったDくんが、「私は一番きれいなのよ!」と胸を張って演じることで、普段の生活でも自信がついたと保護者から感想をいただきました。
カブトムシのおばさん達の身勝手なセリフは、ふつう使いません。人に向かって言ってはいけない言葉だと教えられていますからね。ところが、ミュージカルの中ではどんどん言えと指導されます。お芝居の中だからどんどん言っていいのよ、言わなくちゃ舞台が完成しないからね、と子供達に話しておきます。
- ♪ あら、やだ この子 足が2本しかないわ ひげもないわ 胴が細くて まるで人間みたい あーあ みにくい 吐き気がするわ
- 子供達は腰を振り、ステップを踏んで楽しそうに演技します。ここが大事なんですよね。普段のおりこうさんの枠を取り払って、気持ちを解放させてあげるの子どもミュージカルの良いところです。
モグラ:他者に関心はなく、常に自分たちだけが正しいと思っている。
モグラの旦那さん 金が命のいやな人
おもいきりいやらしく演じよう!案外気持ちがいいですよ
“お金こそが人生”と信じて疑わないモグラや、「善意と常識」を代表するねずみのおばさんなど、それぞれが“生きた価値観の象徴”でもあるのです
モグラの旦那 「金が全て」のキャラクター
「お金が一番大事」と言い切るセリフを通して、子どもたち同士で「本当に大切なものは何だろう?」と話し合う場面が生まれました。
- 演技・演出のヒント
- 動きはゆっくり、重く、地を這うように。
- 声は低くてぶつぶつとした調子。「それは贅沢だ」「そんなの役に立たない」という口癖があっても面白い。
- 衣装:黒やグレー系の衣装、小道具に金色のアクセサリーを加える。
このモグラがいるからこそ、親ゆび姫の「旅」が意味を持ち、子どもたち自身も「本当に大切なものって何?」と考えることができますよね。
ねずみのおばさん:善意の現実主義者
ねずみのおばさん おせっかい焼き
世話好きなEちゃんがこの役を演じたことで、「おせっかいって悪いことじゃないんだね」と自分の性格に誇りを持つようになりました。とても良いことですね!
キャラクター性
- 一見親切でやさしく、親指姫を庇護しようとするが、価値観は「堅実・安定・財産重視」。
- 「かわいそうだから助ける」気持ちは本物だが、最終的には「モグラさんに嫁げば安心よ」という現実的な選択肢を勧めてくる。
- 悪意はない。むしろ“普通の善意”の顔をした圧力。
演技のポイント
- 話し方: せっかちな口調。安心感を与えるように「〜なのよ」「〜しましょうね」といったやさしげな口調が効果的。
- 子ども役者には「親切だけれど、おしつけがましいおとな、あなたのそばにいるかな?お母さんとか先生は?」と例えると伝わりやすいです。
- 身体の動き: 丸みのある動き、小刻みな歩き方。少しせわしなく、小物(はたき、ほうき)を使って「暮らしの匂い」を出せると◎。
- 衣装・美術: ベージュやくすんだピンクなど、温かく清潔感のある色合い。エプロンや毛糸のショールで“家庭的”を演出。🕊 燕(ツバメ):自由と真の価値を運ぶ者
🕊 燕(ツバメ)親ゆび姫を解放する者
燕(ツバメ)は『親ゆび姫』の物語において、姫を閉ざされた世界から解放する“転機の象徴”として極めて重要な役割を果たします。
つばめ 親ゆび姫を救い出す!かっこいい役!
・地下の闇から空へ。姫に“生き方の自由”を示す存在。
・自らも傷を負いながら、それでも飛ぶ力を信じている。
- 姫の内に眠る「光を望む心」に、そっと風を送り込む導き手。
演技のポイント 爽やかで颯爽とした演技
- 声のトーン: 静かで澄んだ語り口。信頼と優しさがにじむように。
- 動き: 軽やかで柔らかく、風が通るような身のこなしを意識する。ダンスで表現とうまくいく。
- 目線: 姫と対等に向き合う目線を大切に。上から引っ張らない、下から救わない。あくまで「ともに羽ばたく存在」として描く。
- 間(ま): セリフより、沈黙や視線、羽ばたく予感のような“間”に感情を込める。
- 衣装 :黒い燕尾服.帽子は黒い帽子に目とくちばしをつける。
- 印象づけるキーワード 心のままに生きること
「自由」 「心のままに生きること」 「優しく、決して急かさない存在」 「姫の決意を信じて、待つ強さ」。これらの言葉がキーワードとして用いると、観客の心に響きます。
なりきる以外にない、感動を生む本物の演技
子どもたちはその役を演じるうちに、「どんなふうに話すと伝わるかな?」「このキャラクターって、何を大事にしてるの?」と、内面からのアプローチで演技を組み立てていきます。
ただ踊ったり台詞を言うだけではなく、心で“なりきる”ことの面白さ。 それこそが、観る人の胸に深く残る舞台の原動力です。
4・ 実践例:現場でのエピソード
ある学校公演では、最初は「目立ちたくない」と言っていたFさんが、稽古を重ねるうちに「もっと前に出たい」と自ら手を挙げるようになりました。終演後、「舞台の上でみんなと一緒に歌えたことが一番楽しかった」と話してくれたのが印象的でした。
稽古の初めのうちは声が小さかったAちゃんが、稽古の中で仲間と踊って歌うシーンで張りのある大きな声が出るようになったり、「一番目立たない役でいい」と言っていたC君が、本番で観客に向かって胸を張って堂々とセリフを言うようになりました。
特に印象的だったのは、ある子が終演後にこう語ってくれたことです。「本当は話すのが苦手だったけど、親ゆび姫になって『今度こそ、広い世界へ飛んで行く!』って言ったら、本当にどこまでも行ける気がした。
こうした“言葉と心が一致する瞬間”こそ、舞台の持つ教育的な力の最たるものだと感じます。
4. 教育現場で取り入れるためのステップ
以下は、実際に導入された現場での流れを簡潔にご紹介します
私自身、最初は演劇指導の経験がほとんどありませんでした。台本や音源を活用しながら、週1回の稽古を続けることで、子どもたちの成長を間近で感じることができました。配役も「やりたい!」という声を大切にし、全員が何らかの形で舞台に立つ工夫をしました。
- 期間設定:週1〜2回の稽古で、3ヶ月ほど
- 配役の工夫:子供たち全員を役付きにする。それが難しい場合は、歌だけのグループ、群舞グループ、動くだけのグループなど個性に応じた参加方法を考える。
- 空間づくり:教室や体育館でも簡単な照明・音響・パーテーションに飾り付けを加えるだけで“舞台”になります
- サポート体制:保護者の協力や、地元演劇人との連携も可能です
さらに、台本・音源・演出資料などの提供を組み合わせれば、よりスムーズに始められます。
6・よくある課題とその対策(体験談付き)
・声が小さい・恥ずかしがる
最初は声が小さかった子も、グループでセリフを言う練習を繰り返すうちに、自然と大きな声が出るようになりました。また、保護者向けにリハーサルを公開したところ、「子どもがこんなに成長するとは思わなかった」と驚きの声をいただきました。
観客と子どもの成長:舞台の影響力
- 観客への効果:観客から寄せられた感想やその反応を反映し、物語の魅力がどのように伝わったかを語る。
- 子どもの変化:舞台に立った子どもたちが実際にどんな成長を見せたかを具体的に述べる。
6. おわりに
ミュージカル作りは、子どもたちの「やってみたい!」を引き出す素晴らしい機会です。もし迷っている方がいれば、まずは小さな一歩から始めてみてください。舞台の上で輝く子どもたちの姿は、きっと忘れられない宝物になります。
もしあなたの学校や学童でも、「表現の場」を探しているなら—— ぜひ、子どもたちの中にある“舞台人”を呼び起こしてみませんか?
- 劇団天童代表 浜島代志子
- http://gekidantendou.com
- mail gekidantendou@gmail.com
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