子どもが変わる瞬間――『ヘンゼルとグレーテル』人形劇の教育現場から学ぶ心と表現の成長記録

グリム童話を教育に取り入れる
  • はじめに──物語を「読む」から「生きる」へ

幼児教育の現場で、「子どもの変化」を本当に実感できる瞬間はそう多くありません。しかし、物語を「読む」だけでなく「演じる」ことで、子どもたちは驚くほどの成長をみせます。 とくに『ヘンゼルとグレーテル』の人形劇プロジェクトでは、「できない」「恥ずかしい」と感じていた多くの子どもたちが、劇を終えた瞬間から自分の力に気づき、次への意欲を持ち始めました。 本記事では、それぞれの段階・関係者のリアルな言葉・舞台裏や家庭の応援まで、全過程を1万字以上で克明に記録します。

  1. 人形劇が幼児教育に必要な理由(わけ)
    1. 動かないから飽きる。人形劇なら終わりまで見てくれる?
    2. わたしも人形を動かしたい!子供の表現力はおとなよりすごい!
    3. 人形劇を見る側から演じる側へ
  2. 第1章『ヘンゼルとグレーテル』を選ぶ理由
      1. どの家庭・園でも共感できる物語
      2. 魔女役が子どもの心を試す
  3. 第2章 読み聞かせで開かれる感情の扉
      1. 五感で味わうステージづくり
      2. 対話で生まれる共感と自己認識
    1. 人形劇への展開──“演じる”ことで物語が自分ごとになる
    2. セリフづくりと演出の工夫──子どもたちの表現力が育つ瞬間
      1. セリフづくりは“心の声”を言葉にする時間
      2. 演出の工夫は“伝えたい”気持ちの表現
      3. 表現力が育つ瞬間とは
      4. 本番に向けて──協力・信頼・達成感人形劇が終わったあとに残るもの
  4. 第3章 配役・制作の舞台裏
    1. 配役で見えてくる社会性
    2. 衣装・小道具制作に広がる家庭との連携
  5. 第4章 稽古の日々で変わる子どもたち
    1. 稽古初日の“壁”と仲間意識
    2. オリジナル化への挑戦
  6. 第5章 本番前夜の成長ドラマ
    1. 保護者・先生の支えあい
    2. 自信と不安の狭間で
  7. 第6章 本番当日──舞台に立つ奇跡
    1. 幕が上がる前の緊張とワクワク
    2. 本番のハプニング、笑顔、そして涙
  8. 第7章 本番後――歓喜の輪と新しい「自分」
    1. やり遂げた子どもたちの言葉
    2. 保護者・先生たちの涙と賞賛
  9. 第8章 絵本化と家庭での広がり
    1. 劇後のふり返りと絵本制作
    2. 家庭での再現劇と兄弟・家族の参加
  10. 第9章 トラブル・ハプニングも「学び」になる
    1. 配役や練習での衝突
    2. 失敗や涙を乗り越える経験
  11. 第10章 SEL(社会性と情動学習)の観点からの分析
    1. 人形劇は「生きた社会性育成」の教科書
    2. 専門家のコメント
  12. 第11章 家庭・地域にまで波及する「物語の力」
    1. 地域とのつながり、次の挑戦へ
  13. 第12章 本番後の成長・「次の物語」への跳躍
    1. 成長した子どもの新たな顔
  14. 第5章:おわりに──物語が育てる“やさしさ”と“生きる力
    1. 物語は心の栄養
    2. SELと演劇の融合
    3. “こわいけど、いっしょなら大丈夫”──物語が教えてくれること
  15. まとめ:人形劇は偉大な教育ツールです!

人形劇が幼児教育に必要な理由(わけ)

本好きになってもらいたいと思って、図書館のある市民センターで子供達に一生懸命に読み聞かせをしました。2冊までは聞いてくれるのですが、もぞもぞ動いたり、大あくびをしたり、寝転がったりする子が出てきます。対話式読み語りにして子供の注意を引こうとしますが、ダメでした。

「まだやるの?」「絵本ばっかりつまらない」幼児は遠慮がありません。ぐさっと来る言葉を浴びせられました。絵本の絵は動きません。語り手が一生懸命に表現しても絵本の絵は動かないのだから仕方ありません。

動かないから飽きる。人形劇なら終わりまで見てくれる?

幼児はいっときもじっとしていません。集中時間も15分くらい。ならば、子どもが興味関心を持つ人形劇をやってみよう!そこで人形劇をやってみると、なんと子供達の反応がすごい!立ち上がって人形達に声をかける、悪者人形が登場すると叩きにくる。良い人形が悪者をやっつけると「よかったね」「えらかったね」、人形劇舞台に近寄ってきて人形を撫でにきたり抱きしめたりするのです。絵本読み聞かせでは見せなかった子供達の反応にびっくりしました。子供達の感情が動いたのです!

「ヘンゼルとグレーテル」の人形劇の後には必ず「ヘンゼルとグレーテル」の絵本を見せ、「今見たおはなしがこの絵本の中にあるから読んでみようね」と語りかけると食いつきがとても良いのです!おとなにとっては人形が動くだけかもしれませんが、子供は人形だと思いません。

「魔女がいるよ!」「こわいよ、逃げて!」「魔女なんてやっつけろ!」「お菓子だけ持って逃げろ!」子供達は立ち上がって大騒ぎ。魔女人形を叩く子、ヘンゼルとグレーテル人形に逃げろと真顔で言う子、「見えないよ、座って!」と叫ぶ子。

わたしも人形を動かしたい!子供の表現力はおとなよりすごい!

終演後、子供達に人形を貸してあげます。子供達が人形をを動かしながらセリフを言っているのを見るといつも驚かされます。こんな表現があるのか、子どもの方がうまいな、おとなでは考えつかない動かし方とセリフ回しを次の公演でやってみようと思わされます。子供は私の先生だと強く感じる一瞬。こんな幸せな時間があるから止められないのです。

人形劇を見る側から演じる側へ

「人形劇ってすごい力がありますね。子供達にやらせてみたい。今の子供達は受け身になりがちですが、人形劇を演じることで子供をいきいきと輝かせたい」

「幼児でもできますか?」「もちろん、大丈夫ですよ!セリフを短くして動き中心でいけばできます。アドリブもOKです」間違いなくやるというより役になりきって感情を育てる、生きる力を養うことが目的、上手下手という見方はしないでいただきたいとお願いして人形劇公演を行うことにしました。

人形劇の本番が終わったあと、保護者も先生も、そして子どもたち自身も、 「こんなに心が動くなんて」「こんなに力が育つなんて」と、驚いていました。 協力する力、気持ちを伝える力、やりきる喜び── 人形劇には、私たちが思っていた以上の“育てる力”があるのです。

わが子の姿に胸が熱くなり、先生たちが「こんな表情、初めて見た」と語り合い、 子どもたちが「またやりたい!」と目を輝かせる。 その場にいた誰もが、「みんなやればいいのにね」と自然に言葉を交わしていました。

だから私は、この記事を書くのです。 人形劇の偉大な力を、もっと多くの人に知ってほしくて── 子どもたちの心の育ちを、舞台の裏側から伝えたくて。

第1章『ヘンゼルとグレーテル』を選ぶ理由

どの家庭・園でも共感できる物語

『ヘンゼルとグレーテル』は、単なる兄妹の冒険譚ではありません。知らない世界に飛び込み、不安や恐怖を感じながらも、兄妹で支え合い、知恵と勇気で困難を乗り切る物語です。「困難な状況の中でも、何か“しるし”があれば頑張れる」、そのメッセージは今の子にも響きます。 先生同士の会話では、「森で迷うなんて今の子は日常で体験しないけれど、不安や心細さは誰でも感じます」「だから、この話を通して“しるし”の大切さを感じてほしい」と意見が一致しました。

魔女役が子どもの心を試す

心理的に「魔女を演じたい」という子は少数派。しかし、だからこそこの役がSEL(社会性・情動学習)にとって大きな意味を持ちます。実際に、普段は消極的な女の子が「やってみたい」と申し出る場面がありました。練習では怯えていましたが、クラス全体で声援を送り、本番後「やりきって良かった」と満足げに振り返っていた姿が印象的です。

第2章 読み聞かせで開かれる感情の扉

五感で味わうステージづくり

まずは読み聞かせの時間。部屋の明かりを落とし、森の場面が近づいたら静かに「風がドキドキしているみたいだね」と語り、パンくずの場面ではゆっくり、優しく。「お菓子の家だ!」の声には絵本に顔を寄せて「どんな匂いがすると思う?」と投げかけ、子どもたちのイメージ力に働きかけます。

対話で生まれる共感と自己認識

読み終わったあとは、「グレーテルはどんな気持ち?」「ヘンゼルだったら何する?」と一人ひとり順に聞きます。「妹がいればさびしくないです」「魔女に会ったら怖いけど、兄がいるから大丈夫」と自分の思いを口にし、感情や考えを言語化する力が伸びます。これがSEL教育の第一歩です。

人形劇への展開──“演じる”ことで物語が自分ごとになる

読み聞かせで心を動かされた子どもたちは、次に「演じる」ことで物語の世界にさらに深く入っていきます。 ここからが、絵本から人形劇への“橋渡し”の時間です。

まずは、登場人物の気持ちを想像するワークから始めます。 「ヘンゼルは、森の中でどんな気持ちだったかな?」 「魔女は、どうしてグレーテルを閉じ込めたんだろう?」 子どもたちは、登場人物の視点に立って考え始めます。 この時間は、SELの「他者理解」「共感性」を育む大切なステップです。

次に、役を決めて人形を手に取ります。 ヘンゼル役の男の子は、少し照れながらも「ぼくが妹を守る!」と力強く言いました。 グレーテル役の女の子は、「こわいけど、がんばる」と言って魔女の家に向かう場面を演じます。 魔女役の子は、声を低くして「おまえたちを食べてやるぞ〜」と演じながら、終わったあとに「ほんとはこわい役やりたくなかったけど、やってみたら楽しかった」と笑っていました。

人形劇の中で、子どもたちは「自分ではない誰か」になりきることで、感情の幅を広げ、表現する力を育てていきます。 また、演じることで物語が“自分ごと”になり、登場人物の気持ちをより深く理解するようになります。

演じ終えたあと、「どんな気持ちだった?」と聞くと、子どもたちはそれぞれの役の気持ちだけでなく、自分自身の感情も語り始めます。 「妹を守るって、ちょっとドキドキした」 「魔女になったら、みんなにこわがられて、さみしかった」 「グレーテルは、最後にがんばってすごいと思った」

このような時間は、SELの「自己表現」「感情の調整」「協働性」を育む貴重な体験です。 人形劇は、単なる遊びではなく、子どもたちの心の成長を支える“物語の体験”なのです。次節では、この人形劇を通して育まれるSELの具体的な力について、教育現場での実践例を交えてご紹介します。

セリフづくりと演出の工夫──子どもたちの表現力が育つ瞬間

人形劇の準備が進むにつれ、子どもたちは「演じる」ことから「創る」ことへと一歩踏み出します。 その中心にあるのが、セリフづくりと演出の工夫です。 この時間こそが、子どもたちの表現力がぐんと伸びる“育ちの瞬間”です。

セリフづくりは“心の声”を言葉にする時間

絵本のセリフをそのまま使うのではなく、「自分だったら何て言う?」と問いかけることで、子どもたちは登場人物の気持ちを自分の言葉で表現し始めます。

たとえば、魔女に閉じ込められたグレーテルの場面。 ある女の子はこう言いました。 「こわいけど、ヘンゼルがいるから、がんばる!」 そのセリフは、絵本にはない“彼女自身のグレーテル”の声でした。

別の子は、魔女役として「おなかすいたから、だれか来ないかな…」とつぶやきました。 その一言に、周囲の子どもたちが「魔女もさみしいのかも」と反応し、物語の解釈が広がっていきました。

セリフづくりは、感情の言語化と創造的思考の交差点。 子どもたちは、自分の中にある“感じたこと”を、言葉にして外に出す力を育てていきます。

演出の工夫は“伝えたい”気持ちの表現

セリフだけでなく、動きや音、舞台の工夫も、子どもたちの表現力を引き出す大切な要素です。

たとえば、森の場面では、緑の布を広げて「ここが森だよ」と自分たちで舞台をつくります。 魔女の家の場面では、カラフルな紙を貼って「お菓子の家っぽくしたい!」と工夫を凝らします。

ある男の子は、ヘンゼルがパンくずを落とす場面で、実際に小さな紙をちぎって「これがパンくず」と言いながら舞台に置いていきました。 その姿に、周囲の子どもたちが「ほんとに落としてるみたい!」と目を輝かせました。

演出の工夫は、“伝えたい”という気持ちの表現です。 どうすれば見ている人に伝わるか、どうすれば物語がもっと面白くなるか──子どもたちは自然と“観客の視点”を持ち始めます。

表現力が育つ瞬間とは

セリフを考え、演出を工夫し、仲間と一緒に物語を創り上げる。 その過程の中で、子どもたちは「自分の思いを形にする力」「誰かに伝える力」「仲間と協力する力」を育てていきます。

そして何より、完成した人形劇を演じ終えたあと、子どもたちが「楽しかった!」「またやりたい!」と笑顔で言うその瞬間こそが、表現力が育った証です。

本番に向けて──協力・信頼・達成感人形劇が終わったあとに残るもの

人形劇の本番が近づくにつれ、子どもたちの空気が少しずつ変わっていきます。 「セリフ、忘れないようにしなきゃ」 「○○ちゃんが出るタイミング、わたしが合図するね」 そんな声が自然と飛び交い、劇づくりは“みんなでつくるもの”へと変わっていきます。

本番前のリハーサルでは、緊張と期待が入り混じった表情が見られます。 ある子がセリフを忘れてしまったとき、隣の子がそっと耳打ちして助ける姿。 舞台裏で「がんばろうね」と手を握り合う姿。 そこには、協力と信頼がしっかりと根づいています。

そして迎える本番。 保護者や先生たちの前で、子どもたちは堂々と演じます。 セリフを言う声、動き、表情──どれもが、これまでの積み重ねの集大成です。 演じ終えた瞬間、舞台の裏で「やったー!」と抱き合う子どもたちの姿は、達成感そのものです。

人形劇が終わったあと、子どもたちの中に残るものは何でしょうか。

  • 自分の気持ちを言葉にした経験
  • 仲間と力を合わせた記憶
  • 見てくれた人の笑顔
  • 「できた!」という自信

そして何より、「またやりたい!」という前向きな気持ちです。 この気持ちは、次の挑戦への原動力となり、子どもたちの心の中にしっかりと根を張っていきます。

人形劇は、単なる発表ではありません。 協力・信頼・達成感を通して、子どもたちの“生きる力”を育てる教育的体験なのです。

第3章 配役・制作の舞台裏

配役で見えてくる社会性

配役決めは小さな社会の縮図です。希望が重なればじゃんけんや相談。「やりたかった」と涙する子に、「じゃあ次の劇で絶対やろう」と声をかける姿もありました。「主役じゃなくても劇に必要な役はいっぱい」「ぼくは鳥でもいい」といった子もいます。先生の「みんな、一番合う役を考えてみよう」の声が場を和ませます。

衣装・小道具制作に広がる家庭との連携

森の木は落ち葉や画用紙で子どもたち自身が作り、お菓子の家の壁にはティッシュ箱が再利用され、窓やドアはカラフルな折り紙で飾り付け。衣装づくりでは「昨日、ママとパンくずの袋を縫いました」「パパが帽子を直してくれた」といった家庭のエピソードが毎日のように聞かれました。親子で舞台を支えるコミュニケーションも豊かになります。

人形劇『ヘンゼルとグレーテル』の本番を終えたあと、子どもたちの中には、まだ物語が息づいていました。 「グレーテルって、ほんとはもっと怖かったと思う」「お菓子の家、あんなに甘い匂いがしたよ」── 舞台の上では語りきれなかった“自分たちのグレーテル”が、子どもたちの言葉の中に広がっていたのです。

そこで私たちは、子どもたち自身の言葉と絵で、物語を絵本にすることにしました。 セリフではなく、自分の感じたことを、自分の言葉で語る。 「グレーテルは、弟を守るためにがんばった」「魔女はちょっとかわいそうだったかも」── その語りには、演じたからこそ生まれた“内側からの物語”がありました。

絵本づくりは、ただの振り返りではありません。 子どもたちは、自分の役や場面を思い出しながら、 「このとき、グレーテルはどんな気持ちだった?」と、互いに問いかけ合います。 そのやりとりの中で、物語の深さに気づき、仲間の視点を知り、 自分の表現が“誰かに伝わった”という実感を得ていくのです。

完成した絵本には、子どもたちの言葉と絵がぎゅっと詰まっていました。 それは、舞台の記録であると同時に、心の成長の記録でもあります。 「この絵本、弟に読んであげたい」「おばあちゃんに見せたい」── 子どもたちは、自分たちの物語を、誰かに届けたいと思ったのです。

人形劇は、演じて終わりではありません。 そのあとに、語り、描き、伝えることで、子どもたちの表現はさらに深まります。 “自分たちのグレーテル”を絵本にすることで、子どもたちは物語の主人公として、 自分自身の心の旅を歩んでいたのです。

第4章 稽古の日々で変わる子どもたち

稽古初日の“壁”と仲間意識

最初の稽古はほとんどの子が緊張。「声が小さくて届かない」「セリフを忘れる」「動きがちがう」と先生はやさしく指摘します。でも練習回数が増えるごとに「次は大きな声で!」「パンくず役の順番、ぼくが案内する」など、だんだん自分たちで“進行”や工夫も始まります。

ある男の子は「お兄ちゃん役、うまくできない」と一度落ち込みましたが、「私がグレーテルで助けるよ」と女の子が励まし、2人で秘密特訓するほど熱心でした。

オリジナル化への挑戦

台本通りに動くのが難しい子ほど、「自分で言いたいセリフ」「新しい動き」を考え始めます。「パンくずを拾うときに歌を歌いたい」「森に鳥の鳴き声を入れたら?」 そうして全体がどんどん“自分の劇”に進化していくのです。

第5章 本番前夜の成長ドラマ

保護者・先生の支えあい

本番前日、衣装や小道具の最終チェックをする保護者が園に集まります。「息子が帽子を忘れないように名前を書きました」「家で練習しすぎて、声が枯れました」とにこやかに話す保護者。「今日も最終リハ、がんばろうね」と先生たちが横断的に声をかけます。

自信と不安の狭間で

「声が出ない…」「間違えたらどうしよう」と不安を口にする子どもたち。しかし「誰かが助けてくれるから大丈夫」「失敗してもやり直せばいい」と励ます子もいて、自然とチームの一体感が高まっていきます。

第6章 本番当日──舞台に立つ奇跡

幕が上がる前の緊張とワクワク

袖で人形を持ち、「がんばろう!」とハイタッチ。「緊張する…けど楽しみ!」と声が漏れる中、「せーの!」で全員の心がひとつになります。 たった15分ほどの人形劇なのに、その短い間に一人ひとりの“小さな挑戦”が詰まっています。

本番のハプニング、笑顔、そして涙

ある子がセリフを忘れて沈黙。それを隣の魔女役が「大丈夫?」と手を添えて無言でサポート。パンくずを落とすシーンでは、一気に全部落としてしまい「風が強かったみたい」と即興で会場を笑わせる場面も。うまくできない子が泣き出しても、「失敗しても平気だよ」「次またやろう!」とフォローしあう関係が本番でしっかり形になっていました。

第7章 本番後――歓喜の輪と新しい「自分」

やり遂げた子どもたちの言葉

本番終了後、子どもたちは「全部言えました!」「ちょっと失敗しちゃったけど楽しかった」「怖かったけど最後は大声が出せました」と思わず拍手。舞台袖で泣いていた子も、成功体験を胸に「またやりたい!」と目を輝かせていました。

保護者・先生たちの涙と賞賛

家では小さな声しか出さないのに、堂々と演じて驚きました」「家族で一緒に作った劇の成果です」と語る保護者も多数。先生は「子ども同士で自然に支え合う輪ができた」と感涙していました。

第8章 絵本化と家庭での広がり

劇後のふり返りと絵本制作

終わったあと一人ひとり、自分の役や印象に残った場面、感想を書き、「劇の思い出」や「新しいストーリー」として絵本制作を行いました。「魔女は最後は寂しかったんだと思う」「パンくずを拾う鳥の気持ちになった」といった新解釈や、劇を通じて生まれた物語が新しい絵本として各家庭に持ち帰られます。

家庭での再現劇と兄弟・家族の参加

家に持ち帰った後、「弟に劇を見せてあげました」「お父さんが魔女役をやってくれて大笑い」など、家族全体が「物語文化」を共有。保護者同士でも「お菓子の家キットを作りました」「動画をおばあちゃんに送りました」など、家庭のコミュニケーションが広がっています。

第9章 トラブル・ハプニングも「学び」になる

配役や練習での衝突

「どうしても魔女がやりたい」「主役じゃなきゃ嫌」といったぶつかり合いも当然起こります。ですが「その気持ちをちゃんと伝えてよかったね」「じゃあ次は役を交替しよう」といった落としどころや、先生の「みんな違うからいい」という声かけで、衝突がいつの間にか自己調整と納得の力に変わります。

失敗や涙を乗り越える経験

練習で泣き出してしまう子に「ここで待ってるだけでも大丈夫」と役を免除したり、一旦見学に切り替えてまたチャレンジ、という柔軟な運営も実践しました。「今日はセリフを飛ばしたけど次はやる」「うまくできずに泣いたけど、仲間が声をかけてくれて復帰できた」など、転びながら立ち上がる経験こそ、将来の大きな財産です。

第10章 SEL(社会性と情動学習)の観点からの分析

人形劇は「生きた社会性育成」の教科書

自己認識:「自分はどんなときにうれしい?こわい?」「ヘンゼルならどうする?」 感情の調整:大勢の前に立つ緊張や不安をどう乗り越えるか 他者理解・共感:魔女役や鳥役の気持ちも体験 協力・共創:「セリフ忘れたら助け合おう」「仲間の成功を祝福し合う」 クリエイティビティ:台本アレンジや舞台装置づくり、家庭での独自発展 学級のなかで日常的にSEL教育を実現できる上、達成感と記憶に残りやすい方法です。

専門家のコメント

保育分野の専門家からは「人形劇は『社会性の実地訓練』のようなもの。いじめや不登校のリスクも低減する明るい空間をつくれる。家庭との接続も強く、保護者の教育参加にも最適」との声をいただきました。

第11章 家庭・地域にまで波及する「物語の力」

保護者・祖父母・兄弟を巻き込む波 「妹がグレーテルごっこを始めた」「父親が魔女で本気を出しすぎて子どもが爆笑」「祖母が小道具製作で張り切る」など、家庭の枠を超えた現象も生まれています。「家族劇をビデオで撮ってSNSに上げました」「地域のイベントでも劇をしたい」など、波及効果は計り知れません。

地域とのつながり、次の挑戦へ

自治体の子どもイベント・町内会の催し物で「ヘンゼルとグレーテル」劇が採用され、講師として参加した事例もあります。 「人形劇の体験効果を地域で伝えたい」「大人も演じて自分の子ども時代を再発見できた」といった声も広がりました。

第12章 本番後の成長・「次の物語」への跳躍

成長した子どもの新たな顔

本番後、恥ずかしがり屋だった子がクラス委員やリーダーに立候補することが増えました。親からは「普段言えない話題が家で共有できるようになりました」「兄弟同士で協力するシーンが増えました」という変化も報告されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人形劇の舞台裏には、子どもたちを支える“応援団”の存在があります。 それは、セリフを一緒に練習してくれる先生、衣装づくりに協力してくれる保護者、 そして何より、子どもたちの挑戦を信じて見守る大人たちのまなざしです。

「うちの子、こんなに大きな声で話せるなんて」「あの子、舞台の上で堂々としてたね」── 本番を終えたあと、保護者同士が語り合うその声には、驚きと誇らしさが混ざっています。 先生たちも「練習では見えなかった表情が、本番で出た」と、 子どもたちの“物語を生きる力”に目を見張ります。

人形劇は、子どもたちだけのものではありません。 物語を通して、先生と保護者が「応援する仲間」としてつながり、 子どもたちの育ちを共有する時間が生まれます。

稽古中、ある子が「セリフが言えない…」と泣き出したとき、 先生が「大丈夫、言えなくても気持ちは伝わるよ」と寄り添い、 保護者が「家でも応援してるよ」と声をかけてくれました。 その子は、最後には自分の言葉でセリフを言い切り、舞台の上で笑顔を見せてくれました。

こうした一つひとつの関わりが、子どもたちの“やってみよう”を支え、 先生と保護者が“応援団”としてつながる土台になります。

物語には、人をつなげる力があります。 人形劇を通して、子どもたちの挑戦を応援する輪が広がり、 先生・保護者・子どもたちが「一緒に育ち合う関係」へと変わっていくのです。

この応援団づくりこそが、人形劇のもうひとつの大きな価値。 物語を通じて、私たちは“育てる人”から“ともに育つ人”へと変わっていくのです。

第5章:おわりに──物語が育てる“やさしさ”と“生きる力

物語は心の栄養

子どもたちが『ヘンゼルとグレーテル』を演じ、語り、絵本にするまでの過程を見守ってきて、私は改めて思いました。 物語は、子どもたちの心にそっと寄り添い、気づかないうちに“心の栄養”を届けてくれるものだと。

こわい場面にドキドキしながらも、兄妹の絆に安心し、魔女の理不尽さに怒り、 そして最後には「いっしょなら乗り越えられる」と感じる── 物語を通して、子どもたちは自分の感情を見つめ、誰かと分かち合う力を育てていきます。

SELと演劇の融合

人形劇は、SEL(社会性と情動の学習)と演劇の力が自然に融合する場です。 セリフを考えることで気持ちを言葉にし、仲間と協力することで関係性を築き、 本番をやりきることで自己肯定感が育ちます。

演じることは、感情を“体験”すること。 物語の中で泣いたり怒ったりすることで、子どもたちは自分の気持ちを理解し、 他者の気持ちにも寄り添えるようになります。

そして何より、演劇は“自分を表現する場”です。 「わたしはこう感じた」「ぼくはこう言いたい」── その声が舞台の上で響いたとき、子どもたちは自分の存在を肯定されるのです。

“こわいけど、いっしょなら大丈夫”──物語が教えてくれること

『ヘンゼルとグレーテル』の中で、子どもたちが一番心に残した言葉があります。 それは、「こわいけど、いっしょなら大丈夫」。

この言葉には、物語が教えてくれる大切なことが詰まっています。 不安なとき、誰かと手をつなぐこと。 困難なとき、声をかけ合うこと。 そして、信じてくれる人がいるから、前に進めること。

人形劇を通して、子どもたちはこの“やさしさと強さ”を体験しました。 それは、これからの人生を歩むうえで、何よりの力になるはずです。

物語は、子どもたちの心を育てる“文化の種”です。 そして、先生・保護者・子どもたちがともに育ち合う“応援団”の輪を広げる力でもあります。

私は、これからも物語を届け続けたい。 子どもたちの心に、やさしさと表現の力を育てるために── そして、社会全体に“いっしょなら大丈夫”という文化を広げるために。

まとめ:人形劇は偉大な教育ツールです!

物語は、子どもたちの心に“やさしさ”と“生きる力”を育てる栄養です。 「こわいけど、いっしょなら大丈夫」──その一言に、物語の魔法が宿っています。

人形劇とSELが出会うとき、子どもたちの表現は命を持ち、心が動き出します。 次回は、そんな“心が動いた瞬間”を、現場の声とともにお届けします。劇団天童が手がけるオリジナル絵本は、深い愛情と教育的視点から生まれた、参加型の作品群です。

  • オリジナル絵本は、子どもたちが自由に描き込める「マイ絵本」スタイル。
  • 人形劇のキャラクターが登場し、物語の世界観が舞台と絵本でつながります。
  • 読み語りは“対話式”で進行し、子どもも大人も「自分で気づく」体験ができる構成。

📚 代表作の一例

  • 『ヘンゼルとグレーテル』のオリジナル絵本では、魔女の存在や兄妹の絆を通して「こわいけど、いっしょなら大丈夫」というメッセージが込められています

特徴と魅力

  • 毎月1冊ずつ刊行されるオリジナル絵本は、子どもたちが自由に描き込める「マイ絵本」スタイル。
  • 人形劇のキャラクターが登場し、物語の世界観が舞台と絵本でつながります。
  • 読み語りは“対話式”で進行し、子どもも大人も「自分で気づく」体験ができる構成。
  • 『ヘンゼルとグレーテル』のオリジナル絵本では、魔女の存在や兄妹の絆を通して「こわいけど、いっしょなら大丈夫」というメッセージが込められています

 

 

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