私たちの劇団にとって『アンデルセン』は、単なる上演作品ではなく、創作の原点に立ち返る特別な挑戦でした。脚本を書き進める中で、「アンデルセンの世界観をどう舞台上で“生きた物語”として伝えるか」が最大の課題でした。
そこで私は、以前から信頼していた振付師に声をかけました。実際の打ち合わせでは、アンデルセンの幼少期や家族との思い出、そして「人魚姫」や「雪の女王」といった代表作の持つ“静かな情熱”をどう動きで表現するか、夜遅くファミレス閉店時間まで話し合いました。
華やかなダンスシーンを作るのはそんなに難しくないのですが、内に秘めた思いを表現するナンバーは難しいのです。体の動きだけでなく衣装や照明、小道具を効果的に使って表現しなければなりません。
そんな時、振付師の技量がカバーしてくれるのです。頭が固まっていた私は、「助かった、そんな手があったのか。これでうまくいく」と感動したことが忘れられません。
振付師はミュージカルの立役者だと思わされます。ミュージカルの振付師はダンス公演の振付師とは責任範囲が広いので、振付師選びはほんとうに大切です。
振付師との出会いと信頼関係
実は今回の振付師とは、数年前に別のミュージカル「ピーターパンとウェンディ」で初めて一緒に仕事をしました。
その時、彼はダンスの振り付けだけではなくこの場面で物語らなければならないことを芝居でも表現します。芝居からダンスへ、ダンスから芝居への動きが自然に流れるので俳優たちは緊張がほぐれ、全員が納得の笑顔で踊り始めた光景が今でも忘れられません。
「この人となら、アンデルセンの繊細な世界も表現できる」と確信し、今回も迷わずオファーを出しました。
ミュージカル振付師は稽古のどの段階で入ればいいのか
台本の読み合わせ、芝居に立ち稽古がざっくり出来た段階で振り付けに入ります。その前に歌が入っていることが大事です。ソロパート、合唱パート、ハモリ歌稽古がしっかり出来ていれば振り付けがスムースに進みます。
振付師の指示
歌のあるナンバーでは「おゝ デンマーク 文化の花咲く 憧れの街よ・・のま、で右手を下ろし始める、手の平は上から下ろす、目線は揚げた手の指先を見る、という具合に指示があります。
なので歌が入っていないと振り付けが進まないのです。ミュージカル稽古の順番は先ず歌、振り付け、芝居、全部を合わせる、だと思ってください。
振付中に演出家はどのように関わるのか
振付けをしている時には演出家は控えています。あるシーンの途中で振付師は演出家に尋ね、確認しながら振り付けを進めます。
「これでいいですか?」「ゲルダの登場シーン、8小節をもっと踊らせてください。ピンフォローしますので」「カイを助けに行くという静かなる決意ですね。
ピンは全身ですか、バストアップですか」「バストアップです。表情を見せたいので」「わかりました。上半身の動きで見せます」
振り付けが終わって芝居と組み合わせる
振付師はその場で振りを作り直し、俳優に指示します。しばらくは振付師と俳優の時間です。演出家は黙って少し離れて見ています。振り付け中は、決して口を出しません。
振り付けが終わると芝居からダンスシーン、芝居へと進むシーンを稽古します。シーンによっては俳優にアドリブを促す場合があります。
良いアドリブはセリフとして新たに台本に書き加えます。綺麗な立ち位置が欲しい場合には振付師にアドバイスをお願いすることがあります。
物語と動きを融合させるプロセス
振付師と共に、脚本のテーマやキャラクターの背景をじっくりと共有しました。たとえば、『人魚姫』のシーンでは、海の波を表現する優雅な動きを提案してもらい、観客が物語の世界に没入できるような振付を作り上げました。
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